情報システム,ソフトウェア,ネットビジネスなどITに関する法律問題を鮫島正洋が解決!

なぜ契約書を作成するのか


ケース

(登場人物)
X部長:システム開発会社A社の開発本部長
Yマネジャー:X部長の部下で,B社を担当するプロジェクトマネジャー 

「B社の件だが,追加開発を受注したって?」
「ええ,そうです。ただ,注文書のやり取りはすみましたが,まだ契約書を交わしていないので,契約は取れてないんです。ただ,プロジェクトはもう走っています。」
「・・契約が取れてないって,どういうことだ?」

ビジネス上の契約は,契約書を交わさないと成立したといえないのでしょうか。
わが国の法律上は,"No"です
ですから,口約束であっても契約が成立する場合があります。

では,システム開発業務委託契約の場合,ベンダの営業担当者と,ユーザのシステム課長が「お願いします。」「ありがとうございます。」などというやり取りを口頭やメールで行っただけで契約が成立したといえるでしょうか。

これも"No"です。
システム開発業務委託契約は,あくまで会社対会社で成立するものであって,営業担当者とシステム課長の間で成立するものではありません。きちんと会社としての意思決定プロセスを経た意思が合致しないと契約が成立したとはいえないでしょう。

このように,会社対会社の正しい意思決定プロセスを経た結果の合意であったことを証明するためには,契約書という文書が必要になるのではないでしょうか。
これが契約書を作成する理由の一つです。 

ポイント1  契約書を作成しておくことで、契約が成立したことの証拠となる



では,ベンダとユーザの社長同士が飲み会の席で「お願いします。」「ありがとうございます。」と言えば,システム開発業務委託契約が成立したといえるでしょうか。
お互いの社長が合意したのであれば,会社としての意思表示が合致したといえるため,契約が成立したといってもよいようにも思えます。

しかし,これもまた"No"でしょう。

これでは契約の中身,すなわち双方の当事者が相手方に何を請求でき,何をしなければならないか(これを債権債務といいます。)がまったくわからないからです。

システム開発業務委託契約のように,複雑で長期にわたる契約については,お互いの当事者が,何を合意したのかを明らかにしなくてはなりません。
具体的な中身について合意されていなければ契約が成立したとはいえないと考えられます
 

ポイント2   契約書を作成することで,ビジネス上の合意が明確になる



また,単なる口約束と,署名捺印のある契約書がある場合とでは重みが違います。
書面に捺印することで,通常の人であれば,その内容を読んで確認し,お互いの約束が書かれていることを認識します。
そして,きちんと守ろうという心理的な強制が生じます。 

ポイント3  契約書という文書を作成することで,債務の履行に対する心理的強制が生じる



一般に,契約書には,争いになった場合を想定し,損害賠償や契約解除に関する条項が盛り込まれます。
これから一緒にプロジェクトを始めようという時点では,将来争いになることが想定しにくいものです。
しかし,契約書を作成することで,どんなリスクが存在するか,それを検出する手段はあるか,ヘッジするにはどうすればよいか,といったことを考えるきっかけとなります。
そこで考えられたことを文書に落とすことで,将来の争いを避けたり,短期で解決したりするためのきっかけとなるのです。
 

ポイント4  契約書を作成する過程で,将来起こりうる不測の事態を予測し,対処方法を考えられる



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