オンラインゲームの利用規約の改定を検討しているところですが,利用規約の実効性を高めるため,利用者に対して,規約違反の場合のアカウントの削除や,違約金の支払い等の制裁条項を入れたいと思っています。利用規約違反に対する制裁措置をとることは問題ないのでしょうか。
アカウント削除等の制裁措置については,利用規約において,禁止事項及びその場合の制裁措置を明確に定めておけば,原則として有効です(利用規約を明確に提示し,その承諾プロセスを経ることが前提です。)。ただし,制裁措置が合理性を欠くものである場合には,有効性が否定される可能性があります。
違約金の定めについては,全面的に禁止されるものではありませんが,その額については消費者契約法の規制が及びます。

オンラインゲームの運営にあたって定められる利用規約においては,ゲーム利用上の条件やユーザーが遵守すべき義務等とともに,通常,ユーザーが利用規約に違反した場合にゲーム事業者のとることのできる措置が定められます。
具体的な措置の例としては,ユーザーのアカウントの停止や,サービス提供の停止,利用資格の剥奪(再登録の禁止)等があげられます。

利用規約違反の場合に,アカウントの停止や,サービス提供の停止等を行うことはできるのでしょうか。

(a)利用規約の定めの有効性

まず,ゲーム運営会社とユーザーの間の契約(ゲーム利用契約)において,利用規約の内容が契約の条件として有効であることが必要となります。

利用規約がゲーム利用契約に組み入れられる条件については,「利用規約の意義」で述べたとおりです(※1)。

例えば,ゲーム運営会社がユーザーに対してゲーム会員登録を求める場合には,会員登録の際に,ユーザーに対して利用規約をスクロールする形で全文表示し,チェック等によって利用規約に同意するか否かの確認を行うというような手続が一般的にとられていると思います。このような手続がとられていれば,利用規約が契約に組み入れられる条件を満たしているものと考えられますので,原則として,利用規約の内容が,ゲーム運営会社とユーザーとの間のゲーム利用契約の条件として取り込まれることになります。

(b)利用規約違反の場合における制裁措置の有効性

では,利用規約違反の場合における制裁を定めた条項に基づく制裁措置をとることは問題ないのでしょうか。

制裁措置の有効性が争われた裁判例としては,ゲームのシステム上の不具合を悪用したことからゲームアカウント永久停止措置をとられたユーザーからの損害賠償請求の事例(東京地裁判例平成22年1月27日)や,そのネーミングの不適切性からキャラクターを削除されたユーザーによる損害賠償請求の事例(東京地裁平成21年9月16日判決)があります。

いずれの裁判例においても,利用規約違反の場合における制裁を定めた条項の有効性が認められた上で,当該条項に基づく措置に違法性はないとして,ユーザーによる損害賠償請求が否定されています。利用規約において,どのような事項が禁止されるのか,及び,その場合の制裁措置を明確に定めておけば,原則として,利用規約に基づく制裁措置の有効性は認められるでしょう。

ただし,上記の裁判例においては,制裁措置の合理性についても検討がなされており,ユーザーの行為に対する処分の重さや,他のユーザーとの公平性などの事情も考慮され得るため,利用規約に明確な条項を置いておけば制裁措置の有効性が絶対に認められるというものではありません。

したがって,ゲーム運営会社が利用規約を定める際や,それに基づく制裁措置をとる場合には,利用規約の定めが明確かどうか,禁止事項や制裁措置に合理性が認められるかどうかについて,裁判例も踏まえて事前の検討をすべきでしょう。

また,ゲーム利用契約は事業者と消費者の間の契約ですので,消費者契約法が適用されます。利用規約において,民法等における任意規定に比して消費者に不利な条項を定める際に,それが信義則上「消費者の利益を一方的に害するもの」であると評価される場合には,当該条項は無効とされます(消費者契約法10条)。
民法との関係でも,利用規約の条件が公序良俗に反するものである場合には,民法90条違反として条項が無効とされ,当該条項に基づく措置が違法となる可能性もあります。
したがって,利用規約を定める際や,それに基づく制裁措置をとる場合には,これらの点についても注意が必要です。

(c)利用規約違反の場合における違約金支払条項の有効性

それでは,利用規約に違反した場合に,ユーザーに違約金等の名目で損害賠償の義務を課すことは可能なのでしょうか。

消費者契約法においては,消費者契約の解除に伴う損害賠償等の額を定める条項において,その額が,解除に伴い事業者に生じる平均的な損害の額を超えるものである場合には,その超える部分について,無効とする旨が定められています。ここでいう「平均的な額」は,解除の事由,時期等の区分に応じて算出されます。(同法9条1号)

すなわち,違約金の定めは全面的に禁止されるものではありませんが,その額については,消費者契約法の規制が及びます。違約金を定める条項においては,解除の事由,時期等の区分に応じた平均的な損害額を超えないよう配慮をすることが必要となります2。
消費者契約法9条の規定は,強行規定と解されていますので,当事者間で合意したからといって,本条の制限を免れることはできません。

※1
前提として,ゲーム利用契約が成立している必要があることも同様です。裁判例では,ユーザーである原告がゲーム運営会社によってアカウントを永久停止処分にされたとして不法行為に基づく損害賠償請求等をした事案において,原告が他人のアカウントを譲り受けていたこと等から,原告は「被告との間で本件各アカウントを利用して本件ゲームに係るサービスを受ける旨の本件各利用契約を締結していたわけではないから,本件停止処分の効力にかかわらず,同契約上の地位を有しているわけではないし,本件停止処分によってかかる地位が害されたわけではなく,本件停止処分は原告に対する不法行為を構成しない」としたものがあります(東京地判平成24年3月21日)。

(弁護士 高岡晃士 H29.2.27)