オンラインゲームにおけるゲーム内通貨やアカウント,アイテム等を現金で売買する,いわゆるRMTが行われる例が多くあるようですが,RMTを取り締まることはできるのでしょうか。
RMTを取り締まるためには,まず,利用規約において,RMTの禁止及び違反の場合の措置について明確に定めておくことが重要です。
また,RMTに付随する行為やRMTの態様によっては,著作者人格権の侵害や,不法行為に基づく損害賠償請求,電子計算機損壊等業務妨害罪や不正アクセス防止法違反の対象となる可能性もあります。

オンラインゲームにおいては,いわゆるRMT(Real Money Trade)が行われることがあります。これは,ゲーム内通貨やゲーム内のキャラクター・アイテム,ゲームアカウント等を,現金(Real Money)によって取引する行為のことを指します。RMTは個人間で行われる場合のほか,RMT業者を通じて行われることもあります。

RMTが公式で認められている例もありますが,そうでない場合には,RMTが組織的に行われることによってゲームの通常の運営を妨げる事態が生じたり,ゲーム内外でのユーザー間トラブルが生じるなど,様々な問題が発生する可能性があります。そこで,以下においては,いかなる場合に,どのような対応をとりうるかについて検討します。

(a)利用規約での対応

まず,RMTを禁止する方策として代表的なものは,利用規約において禁止する方法です。
利用規約においてRMTの禁止を定めておけば,その違反を理由としてアカウントの停止や,ユーザー資格の剥奪,違反行為により得たアイテム等の没収等,利用規約に定める方法によって対応をとることができます。
利用規約に基づく義務の履行としてRMTの中止を求める余地はありますが,現実に実行することは難しいと考えられます。

(b)著作権法違反の可能性

大規模なRMTが行われた場合,ゲームのストーリー展開や,その進行を大きく変えてしまうことも想定され,このような場合には,著作者人格権の侵害を問題とする余地があります。

最判平成13年2月13日(ときめきメモリアル事件)は,ゲーム主人公のパラメータを書き換えることが可能なメモリーカードを輸入・販売する者に対して,著作者人格権の侵害の有無が問われたケースですが,このメモリーカードの使用は,ゲームソフトを改変し,著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものとの判断がなされ,不法行為に基づく損害賠償責任が認められています。

同判例では,ゲームの特性やメモリーカード使用による影響といった具体的な事情を踏まえて判断がなされているため,同判例の議論がどのような事案にまで妥当するのかは明確ではありません。また,同判例では差止の可否についての判断はなされていません。
しかし,大規模なRMT行為やその助長を行う行為については,同判例を前提に,著作者人格権の侵害の有無を検討する余地があります。

(c)不正アクセス禁止法違反などの可能性

RMTで売買するアイテムを入手するなどのために,BOTやチートツール等が使用されることもあります。
BOTやチートツールの使用態様によっては,オンラインゲームの運営自体が困難になるような事態も想定されます。このような場合には,電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法234条の2)や,不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)などが成立する可能性があります。
したがって,状況に応じて,これらについても検討する余地があります。

また,RMTで売買するアカウントを入手するために,他人のアカウントを乗っ取ってアカウントを不正使用するなど,不正アクセスを伴う例も見られます。
このような不正アクセス行為は,不正アクセス禁止法(不正アクセス行為の禁止等に関する法律)による罰則等の定めの適用を受ける可能性があります。
実際に,ゲーム会社従業員がサーバーへ不正アクセスし,ゲーム内仮想通貨を作出・売却し,利益を挙げていたという事案において,同従業員が検挙されるとともに,同従業員に対するゲーム会社による損害賠償請求が認められたこともあります。

(d)ゲームの設計変更

以上のような法的な対応のみならず,事実上のRMT防止措置に向けた対応もみられます。
2012年には,プラットフォーム事業者6社によって構成されるソーシャルゲームプラットフォーム連絡協議会により,リアルマネートレード対策ガイドラインが策定されています。このガイドラインは民間事業者によるものであり,法的拘束力のあるものではありませんが,ガイドラインに沿った運営を行うことは,事実上,有効な手立てになるものと思われます。

(弁護士 高岡晃士 H29.2.26)