オンラインゲームにおいてゲーム内で使用できるアイテムを販売する場合、資金決済法上の問題があるのでしょうか。

 ゲーム内で追加で購入・使用できるアイテム(ゲーム内アイテム)を発行、販売する場合、資金決済法上の前払式支払手段に該当し、届出・登録や供託が必要になる可能性があるため、注意が必要です
※ゲーム内「通貨」の発行に関する問題については、「コイン・メダルの発行に関する問題」もご参照ください。


1.資金決済法における「前払式支払手段」とは

 資金決済に関する法律(資金決済法)においては、以下の要件を満たすものを「前払式支払手段」として規制しています(法3条1項)。

①物品・役務(サービス)の金額・数量が記載・記録され(価値保存性)、
②金額・数量に応ずる対価を得て発行される証票等であって(対価発行性)、
③発行者等に対して、当該物品・役務の代価の弁済等に使用されるもの(権利行使性)

 なお、前払式支払手段を発行する者は、届出・登録を要し(法5条、7条)、保証金の供託等が必要となる場合もあります(有効期間が6か月超のもので、毎年3月末又は9月末の時点で未使用残高が1000万円超の場合等。法3条2項、4条2号、14条ないし16条、法施行令4条2項、6条)。

2.ゲーム内アイテムの性質

 ゲーム内アイテムは、現金や電子マネー等の決済手段で直接購入するか、又は、まずゲーム内で使用できる通貨を購入させ、それをゲーム内で支払うことで目当てのアイテムを購入する仕組みが一般的です。
 ゲーム内通貨については、通常、①その金額等が記録されており、②当該金額等に応じた対価が何らかの決済手段で支払われ、③これを使用することにより別のゲーム内アイテムを使用することができるため、前払式支払手段に該当する可能性が高いものといえます。
 他方で、ゲーム内アイテムについては、以下の2通りの考え方があり得ます。

ⅰ.当該アイテムを購入した時点でそのアイテムの提供を完了したといえるとの考え方(要件③:権利行使性なし)。
(例)対戦ゲームにおけるキャラクターの攻撃力を向上させる武器を入手すれば、当該キャラクターの攻撃力を向上させるというサービスの提供は完了したとの考え方

ⅱ.当該アイテムを取得後、使用することによって初めて、当該アイテムに関するサービス提供を受けられるといえるとの考え方(要件③:権利行使性あり)。
(例)上記武器入手後に、実際に装備し、これを対戦で使用する場合に初めて、敵キャラクターに対しより多くのダメージを与えられるというサービスの提供を受けたといえるとの考え方

 この点、現金で購入したゲーム内通貨と交換でき、オンラインゲームで用いることができる武器、防具、アクセサリー、体力回復剤等のゲーム内追加コンテンツが前払式支払手段に該当するか否かという照会に対して、金融庁は、明確に前払式支払手段に該当するものを除き、利用者に対して、当該ゲーム内に存在する追加コンテンツの取得をもってこれに係る商品・サービスの提供がなされたものとし、前払式支払手段に該当しない旨を利用者に周知し、利用者がこれに同意する仕組みを設ければ、前払式支払手段に該当しないとの回答を示しています[1]

 したがって、ゲーム内アイテムについては、上記ⅰ.記載の考え方を前提としつつ、明確に前払式支払手段に該当するものを除き、利用規約等で当該アイテムがその取得をもってこれに係る商品・サービスの提供がなされたものとし、前払式支払手段に該当しない旨をユーザーに周知し、同意させると、より確実に前払式支払手段該当性を回避することができるものと考えられます。

 他方で、オンラインゲーム内の「宝箱の鍵」というアイテムについて、関東財務局が前払式支払手段に該当すると認定した事例もあります。
 当該アイテムは、ゲーム内通貨(ルビー)を介して入手でき、かつ、ゲーム中のプレーを通じても入手できるというものであったとのことですが、上記認定を前提とした場合、このように無償の入手方法が用意されているアイテムであっても、前述の対価発行性(要件②)が認められ得るということになります(ただし、有償アイテムと無償アイテムを区別して取り扱っている場合、当該無償アイテムについては対価発行性の要件を欠き、前払式支払手段に該当し得ないと考えられます)。
 また、当該アイテムは、ゲーム内で宝箱を開錠するための鍵であり、当該宝箱を開けると、アイテムや上記ゲーム内通貨のルビーを入手することができるというものであったとのことであり、アイテムの使用により別のゲーム内アイテムを複数種類入手し得るという点を重視して、権利行使性(要件②)が認められたものと考えられます。
 以上のとおり、ゲーム内通貨でしか入手し得ないアイテムであっても、その実態によっては前払式支払手段に該当する可能性がありますので、留意が必要です。

2022年12月26日


[1] 金融庁監督局総務課金融会社室長「金融庁における法令適用事前確認手続(回答書)」(平成29年9月15日)
https://www.fsa.go.jp/common/noact/kaitou_2/kessai/index.html#001
の整理番号5欄「照会日(注)及び文書」及び「回答日及び文書」ご参照。