当社では,オンラインゲーム内で,アイテムの購入等に使用できるゲーム内通貨を発行しています。一度購入したゲーム内通貨については,払戻しを認めない取扱いにしたいと考えていますが,問題はあるのでしょうか。
ゲーム内通貨の払戻しを認めない取扱いにすることは可能ですが,その旨を明確に利用規約等において定めておくべきです。

(a)ゲーム内通貨の発行に対する資金決済法上の規制

資金決済に関する法律(資金決済法)においては,下記の要件をみたすものについては,「前払式支払手段」として規制が及ぶものとされています(法3条1項1号)。

  1. 金額又は物品・サービスの数量が,証票,電子機器その他の物(証票等)に記載又は記録されていること。
  2. 金額又は物品・サービスの数量に応ずる対価が支払われていること。
  3. 金額又は物品・サービスの数量が記載又は記録されている証票等又は番号,記号その他の符号が発行されること。
  4. 物品を購入するとき,サービスの提供を受けるとき等に,証票等又は番号,記号その他の符号が,提示,交付,通知その他の方法により使用できるものであること。

ゲーム内通貨についていえば,

  1. 金額やそれを換算した度数等が記録されるものであり,
  2. 当該金額に応じた対価が支払われ
  3. その保有数が記録されたID等が発行され
  4. ゲーム内でのアイテム購入等の対価の支払いに使用できる

ものであれば,原則として,資金決済法の規制が及びます。

資金決済法の規制としては,内閣総理大臣への届出・登録の義務のほか,ウェブサイト等における所定事項の表示義務,保証金の供託等による保全義務,一定の場合の払戻義務等が挙げられます。

また,資金決済法では,一定の場合にユーザに対する払戻義務が課せられる一方で,それ以外の場合には,原則として払戻しが禁じられています(法20条)。通常のケースでは,払戻金額の上限規制等もありますので,資金決済法の規制が及ぶ場合には,むしろ,ユーザの希望に応じて払い戻す取扱いとすることは避けた方がよいでしょう。

もっとも,前払式支払手段に対する資金決済法の規制には,例外があります。
例えば,発行の日から6ヶ月に限り使用できる前払式支払手段には,資金決済法の規制が及びません(法4条2号・施行令4条2項)。したがって,ゲーム内通貨の期限を発行から6ヶ月以内と定めることにより,上記各義務を免れることができます。ただし,プラットフォームによっては,ゲーム内通貨に期限を設けることが禁じられている場合がありますので,留意が必要です(例えば,App Storeではゲーム内通貨に対する期限の設定が認められていません。)。

(b)利用規約等への明記

資金決済法の規制が及ばない場合はもとより,資金決済法の規制が及ぶ場合であっても,それのみを根拠として,ユーザへの払戻しを認めないものとすることができるわけではありません。いずれの場合でも,払戻しの有無をめぐってユーザとトラブルが生じるのを防ぐため,利用規約等にその旨を明記すべきでしょう。

なお,利用規約の有効性が認められるためには,利用規約を明確に提示し,その承諾プロセスを経ることが必要です。詳しくは,「利用規約の意義」を参照してください。

(c)コイン・メダルに関するその他の規制

オンラインゲームではなく,現実の店舗にスロットマシーンやメダルゲームを設置して営業を行っている場合には,風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)の規制が及びます。

現在は,「店舗その他これに類する区画された施設」において,ゲーム機等を使用させる場合のみが対象とされており,店舗を持たないオンラインゲームの場合には,風営法の規制が及びません(法2条1項8号参照)。

もっとも,オンラインゲームに関する規制が強化されれば,風営法の改正等により,新たな規制が課される可能性も想定されるところです。今後の動向を見守っていく必要があるといえます。

(弁護士 高岡晃士 H29.2.28)