当社が開発したソフトウェアについて,販売パートナーを使って拡販を図りたいと考えています。販売パートナーとの契約形態としてどのようなものがあるか教えて下さい。

ITベンダと販売パートナーとの間で締結される契約には,①販売パートナーはITベンダにエンドユーザを紹介等することとし,ソフトウェアの利用に関する契約はITベンダとエンドユーザとの間で直接締結される形態(直接使用許諾型),②販売パートナーとエンドユーザとの間でソフトウェアの利用に関する契約が締結される形態(再使用許諾型)があります。

1 はじめに
ソフトウェアやITサービスについても,通常の工業製品と同様,他社を販売パートナーとして販売活動や営業活動を委託することが行われています。販売パートナーは,単にベンダの製品の販売活動をするだけでなく,当該製品をカスタマイズしたり他のベンダの製品を組み合わせるなどして付加価値のあるソリューションを提供することもあります。販売パートナーがITベンダの製品を自己の名で販売するOEM取引が行われることも少なくありません。

2 販売パートナーとの取引スキーム
ITベンダと販売パートナーとの取引スキームは,①販売パートナーはITベンダにエンドユーザを紹介等することとし,ソフトウェアの利用に関する契約はITベンダとエンドユーザとの間で直接締結される形態(直接使用許諾型)と,②販売パートナーとエンドユーザとの間でソフトウェアの利用に関する契約が締結される形態(再使用許諾型)の2つに大別することができます。両者の権利義務関係の概要を図示すると以下のとおりです。

<再使用許諾型> <直接使用許諾型>
   

3 再使用許諾型と直接使用許諾型の違い
ITベンダと販売パートナーとの間で締結される契約の名称は,「販売店契約」や「代理店契約」,さらには両者を併せたものであるかのような「販売代理店契約」など様々ですが,大切なのはタイトルではなくその内容(中身)です。上記のとおり販売パートナーとの契約は再使用許諾型と直接使用許諾型とに大別できますが,両者には以下のような内容の差異があります。

項目 再使用許諾型 直接使用許諾型
A 価格決定権 パートナー ベンダ
B 代金未回収リスク 原則としてパートナー 原則としてベンダ
C 在庫リスク 取引形態によるが,考慮する必要がない場合が多い 取引形態によるが,考慮する必要がない場合が多い
D 売上 再使用許諾料 手数料
E 利益 転売差益 手数料
F 問い合わせ窓口 パートナーとすることが
多いが,契約次第
ベンダとすることが
多いが,契約次第
G パートナーが負担する
販売促進費用
比較的多いが,契約次第 比較的少ないが,契約次第

上記のうち,再使用許諾型とするか直接使用許諾型とするかにより法律的に当然に結論が導かれるのがAの価格決定権,Dの売上及びEの利益です。以下,これらの事項について簡潔に説明します。

まず,Aの価格決定権です。再使用許諾型の場合,エンドユーザとソフトウェアの利用に関する契約を締結するのは販売パートナーである以上,エンドユーザとの契約における価格決定権は販売パートナーが有することとなります。ITベンダの方で販売パートナー・エンドユーザ間の取引における販売価格を決定してしまうと,再販売価格を拘束しているとして独占禁止法違反の問題が生じ得ますので,注意が必要です(独禁法2条9項4号)。
他方,直接使用許諾型の場合,エンドユーザとソフトウェアの利用に関する契約を締結するのはITベンダである以上,価格決定権は販売パートナーではなくITベンダが有します。

次に,Dの売上げ及びEの利益です。再使用許諾型の場合,販売パートナーとエンドユーザとの間でソフトウェアの利用に関する契約が締結され,同契約に基づきソフトウェア利用の対価が支払われる以上,販売パートナーはエンドユーザから支払われる対価を売上として計上することができ,ITベンダに支払う仕入額との差額をもって利益とすることになります。
他方,直接使用許諾型の場合,ソフトウェアの利用に関する契約はITベンダとエンドユーザとの間で締結され,同契約に基づきソフトウェア利用の対価が支払われる以上,販売パートナーはエンドユーザが支払う対価をもって自らの売上とすることはできません。販売パートナーが対価回収に関する代行業務を行う場合も同様です。販売パートナーはITベンダに代わってITベンダの売上を回収しているにとどまるためです。それでは直接使用許諾型の場合には何が販売パートナーの売上になるのかというと,ITベンダから支払われる手数料です。そしてこれがそのまま販売パートナーの利益となります。

2019年8月28日