「データ創出型契約」という契約類型があると聞きました。複数の事業者が関与する事業で新たに創出されるデータを利用する場合,必ずデータ創出型契約を締結しなければならないのでしょうか?

データ創出型契約とは,平成30年6月に経済産業省が策定した「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」で提唱された契約類型です。複数事業者の関与のもと新たに創出されるデータを利用する場合,当該データを利用するためにデータ創出型契約を締結する必要があるか否かはケースバイケースであり,同契約の締結が不要な場合もあります。

1 データ創出型契約とは?

データ創出型契約とは,平成30年6月に経済産業省が策定した「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」(以下,「データ契約ガイドライン」といいます。)で提唱された契約類型の一つです。データ契約ガイドラインでは,データが取引される場面に応じて,「データ創出型」契約,「データ提供型」契約及び「データ共有型(プラットフォーム型)」契約という3つの類型の契約が提示されていますが,このうち「データ創出型」契約の対象は以下のように説明されています。

「データ創出型」契約とは、複数当事者が関与することにより、従前存在しなかったデータが新たに創出されるという場面において、データの創出に関与した当事者間で、

データの利用権限について合意する場合を対象とする。

2 データ創出型契約を締結しなければ新たに創出されるデータを利用することはできないのか?

データ契約ガイドラインは,「データ創出型」契約においてはデータの「利用権限」を定めることが必要であるとし,その際の考慮要素や検討すべき事項を列挙しています。このような説明に接すると,複数当事者が関与する事業において新たに創出されるデータを利用する場合には,「データ創出型」契約を締結して「利用権限」を設定しなければならないと考える方がいるかもしれません。

しかし,その考えは正しくありません。創出されたばかりのデータは知的財産権や不正競争防止法等の保護対象とはならない情報であり,その利用については法律上の規制が及ばないため,事実上当該情報にアクセスできる者が自由に当該情報を利用することができるためです。

たとえば,IoTデバイスの仕様等の関係上,新たに創出されるデータにアクセスできるのは貴社のみであるという場合,貴社は他の事業者と「データ創出型」契約を締結しなくとも当該データを自由に利用できます。

他方,上記のようなケースで他の事業者が当該データを利用したいと考えた場合,(事実上当該データを独占的に利用できる立場にある)貴社を含めた形で「データ創出型」契約を締結し,「利用権限」の設定・分配を行うか,あるいは,貴社から当該データの提供を受けるために「データ提供型」契約を締結する必要があります。

3 「データ取引」に関する交渉力を強めるために

貴社のみがデータにアクセスできる状況にある場合,貴社は当該データを独占的に利用できるほか,他社との関係で当該データ取引について強い交渉力を有することになるでしょう。他社は貴社の協力がない限り当該データを利用することができないためです。

このような強い交渉力を獲得するため,今後は,IoTデバイスの仕様やビジネスモデルの検討の段階からデータ利用を見据えた工夫をすることが重要になってくるかもしれません(データ生成源となる機器をリース形式でエンドユーザに提供することにより,貴社において同機器が生成するデータにダイレクトにアクセスできる環境を作る等)。

2019年11月8日