当社は、商品の購入履歴を集積し分析したデータを、登録した利用者に対し提供するサービスを行っています。不正競争防止法が改正され、「限定提供データ」という情報が保護の対象になったと聞きました。どのような情報が「限定提供データ」に該当し、法律の保護対象になるのでしょうか。

「限定提供データ」(不正競争防止法第2条7項)として保護される情報は、次の要件を満たす情報です。

①    「業として特定の者に提供する」(「限定提供性」)

②「電磁的方法……により相当量蓄積され」(「相当蓄積性」)

③「電磁的方法により……管理されている」(「電磁的管理性」)

④ 技術上または営業上の情報

⑤ 秘密管理されているものを除くもの

⑥「無償で公衆に利用可能となっている情報と同一」でないこと

以下では、これらの要件を説明していきます。

1 はじめに
近時、IOT、ビッグデータ、AI等の情報技術が発展する中で、データの利活用の活性化が期待されています。このような状況下で、安心してデータの利活用ができる環境を整備するため、平成30年の法改正で不正競争防止法に「限定提供データ」に関する規定が導入されました。以下、「限定提供データ」として保護されるための要件を説明していきます。

2 ①「業として特定の者に提供する」(「限定提供性」)について
①の要件の趣旨は、一定の条件の下で相手方を特定して提供されるデータを保護対象とすることにあります。したがって、①の要件のうち、「特定の者」とは、一定の条件の下でデータ提供を受ける者をいいます。
例えば、次に掲げる者が「特定の者」に該当すると考えられます(指針9頁)。

❶会費を払えば誰でも提供を受けられるデータについて、会費を払って提供を受ける者

❷資格を満たした者のみが参加する、データを共有するコンソーシアムに参加する者

他方、相手方を特定又は限定せずに、広く提供されるデータは、①の要件を満たさず、「限定提供データ」には該当しません。

次に、①の要件として「業として」があります。これは、データを事業として提供する場合には、原則として認められることになります。なお、まだ実際にはデータを提供していない場合であっても、データ保有者に反復継続して提供する意思が認められるものであれば、「業として」の要件は充足することとなります(指針8頁)。

3 ②「電磁的方法……により相当量蓄積され」(「相当蓄積性」)について
②の要件の趣旨は、ビッグデータ等を念頭に、有用性を有する程度に蓄積している電 子データを保護対象とすることにあります(指針9頁)。したがって、「相当量蓄積」とは、社会通念上、価値を有する程度に蓄積されることを意味します。
その判断にあたっては、当該データが蓄積されることで生み出される付加価値、利活用の可能性、取引価格、収集・解析に当たって投じられた労力・時間・費用等が勘案されることになります。
指針(9頁)には、②の要件を満たしうる具体例としての次のような例が記載されています。

❶携帯電話の位置情報を全国エリアで蓄積している事業者が、特定エリア(例:霞ヶ関エリア)単位で抽出し販売している場合、その特定エリア分のデータについても、電磁的方法により蓄積されていることによって取引上の価値を有していると考えられるデータ

❷自動車の走行履歴に基づいて作られるデータベースについて、実際は分割提供していない場合であっても、電磁的方法により蓄積されることによって価値が生じている部分のデータ

❸大量に蓄積している過去の気象データから、労力・時間・費用等を投じて台風に関するデータを抽出・解析することで、特定地域の台風に関する傾向をまとめたデータ

❹その分析・解析に労力・時間・費用等を投じて作成した、特定のプログラムを実行させるために必要なデータの集合物

4 ③「電磁的方法により……管理されている」(「電磁的管理性」)について
③の要件を満たすためには、特定の者に対してのみ提供するものとして管理するという保有者の意思を第三者が認識できるようにされている必要があります(指針10頁)。
それを満たすための具体的な措置としては、データ保有者と、データ保有者から提供を受けた特定の者以外の者がデータにアクセスできないようにする措置(アクセスを制限する技術)が施されていることが必要とされています。
アクセス制限する技術としては、❶ユーザー認証や❷専用回線による転送が該当します。なお、❶のユーザー認証には、ID・パスワード、ICカード・特定の端末機器・トークン、生体情報等が用いられることが考えられます。

5 ④技術上または営業上の情報、⑤秘密管理されているものを除くこと、⑥「無償で公衆に利用可能となっている情報と同一」でないことについて
④の要件は、利活用される又は利活用が予定される情報であれば通常は要件の充足性が認められます。もっとも、違法又は公序良俗に反する情報(例えば、名誉棄損罪に相当するデータ、違法薬物の販売広告のデータ、児童ポルノのデータ等)は④の要件は満たしません。
⑤の要件は、「限定提供データ」を「営業秘密」(不正競争防止法第2条6項)と区別するために設けられた要件です。不正競争防止法は秘密として管理されているデータについては「営業秘密」として保護することとし、秘密としては管理されていないもののここで説明した要件を充足するデータについては「限定提供データ」として保護することにしているのです。
⑥の要件は、相手を特定・限定せずに無償で広く提供されているデータは、誰でも利用することができるものであるので、このようなデータをと「限定提供データ」として保護する必要はないという趣旨で設けられた要件です。なお、金銭の支払いがなくても、データの提供を受ける見返りとして自らが保有するデータを提供することが求められる場合や、そのデータが付随する製品を購入した者に限定してデータが提供される場合等、データの経済価値に対する何らかの反対給付が求められる場合には、「無償」には該当しないと考えられます(指針15頁)。

6 「限定提供データ」に関するどのような行為が不正競争行為となるのか?
本稿では「限定提供データ」として保護されるための要件について説明しましたが、「限定提供データ」についてどのような行為をすると不正競争行為とされてしまうのか,という点も重要です。この点は「限定提供データに関する不正競争行為」で説明します。

2020年2月6日