当社(X社)のソフトウェアαのユーザであるY社が,ソフトウェアライセンス契約で当社が許諾した範囲を超えてαを使用しているとの情報を得ました。どのように対応したらよいでしょうか?
ライセンス違反の疑いを検知した場合,ライセンス違反に関する正確な事実関係を把握することが重要です。X社がY社のαの使用状況を確認・把握するための手段としては,①民事訴訟法に基づく証拠保全(民事訴訟法234条),②ライセンス契約に基づく監査が考えられます。

(a)ユーザによるソフトウェア不正使用の疑いを検知した場合になすべきこと

ライセンス契約で許諾された範囲を超えたソフトウェアの使用は,ユーザが悪意をもって行う場合のみならず,ユーザにおいて,現場の使用者にライセンス条件が周知されていないために発生してしまうこともあります。ライセンサとしては,故意によるものか過失によるものかは別としても,一定の割合でソフトウェアの不正使用がなされてしまうことは避けられないという認識を前提に,ソフトウェアライセンス違反が疑われた場合に,どのようにその証拠を確保するのかを検討しておくがことが重要です。

なぜなら,事業所内の閉じた空間でユーザによる不正使用が行われるような場合,その実態がわかりにくく,ライセンサが不正使用の責任を追及しようとしても,責任逃れのために不正使用の事実を隠ぺいされてしまっては,正当な対価や違約金を支払わせることは容易ではないからです。

ライセンサがユーザのライセンス違反の疑いを検知した場合にまず行うべきことは,ライセンス違反に関する正確な事実関係を把握し,証拠化することです。ライセンサがユーザ内部のソフトウェアの使用状況を確認・把握するための手段としては,①民事訴訟法に基づく証拠保全(民事訴訟法234条),②ライセンス契約に基づく監査が考えられます。

以下,順に説明していきます。

(b)民事訴訟法に基づく証拠保全

民事訴訟法234条は,「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情があると認めるとき」には証拠保全ができると規定しています。ライセンサは,同条に基づく証拠保全決定を得られれば,裁判官等とユーザの事務所に訪れ,ユーザのPC等を調査してソフトウェアの不正使用に関する証拠を保全しておくことができます。

この手段は,ソフトウェアライセンス契約に特段の定めがなくとも採り得る手段である点でメリットがある一方,ソフトウェアの不正使用は通常ユーザ内部の閉じられた環境の中で行われるため,証拠保全決定の要件である「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情」を疎明1するための資料を得にくいというデメリットがあります。上記疎明資料として重要なのはユーザ側の内部資料であり,ライセンサとしては是非とも同資料を得たいところですが,ユーザ内部に積極的な協力者がいるような例外的なケースでない限り,そのような資料を入手することは困難だからです。

こうしたことから,現実的に,必要な疎明資料を収集して証拠保全手続によってソフトウェアの不正使用に関する証拠を保全できるのは稀といえるでしょう。また,仮に疎明資料が収集できて証拠保全決定を得られたとしても,証拠保全手続はユーザの任意の協力のもと行われる手続であるため,ユーザが拒否した場合には手続を実施できないという限界もあります。

(c)ソフトウェアライセンス契約に基づく監査

上記のとおり,民事訴訟法上の証拠保全手続はあまり使い勝手が良い制度とはいえません。そこで,ライセンサとしては,ソフトウェアライセンス契約にユーザによるソフトウェア不正使用について監査できる旨の定めを設けておくことが有益です。契約であれば,①監査実施の要件や,②契約違反がみつかった場合の効果を柔軟に規定できます。

①については,たとえば,ユーザに対する「事前の通知」を行うことで監査を実施できる旨を規定しておくことが考えられます。これにより,ライセンサは,不正使用の疑いあり」との情報は掴んだものの不正使用を疎明し得る資料が入手できないような場合でも,ユーザに事前通知を行うことで監査実施のための要件を充足させることができます。

②については,たとえば,監査に協力した場合の違約金を少なくしておくことで,ユーザに対して契約上の監査に協力するインセンティブを与えることができます。また,ユーザが協力しない限り手続を実施し得ないことは証拠保全手続と同様ですが,契約に基づく監査の場合には,ユーザが合理的な理由なく監査を拒否した場合にはライセンサ主張の不正利用があったものとみなす,などと規定しておくことが可能です。これにより,ユーザの協力が得られずに監査が実施できなかったとしても,ライセンサは,自身が主張する不正使用の事実を前提に損害賠償や適正な対価を請求することができます。

(弁護士 高瀬亜富 H29.3.31)