我が社のシステムの運用・保守をA社に委託しており,A社の社員のBさんが事業所に常駐して運用・保守を行ってくれています。弊社のシステム部部長がBさんに逐一指示をして作業をしてもらい,時には残業や休日出勤も依頼することがあります。このような状態は,最近よく聞く「偽装請負」に当たらないでしょうか。
偽装請負に当たるか否かは,複数の要素を総合的に考慮して判断されますが,ご質問のように,委託先の担当者が業務について逐一指示をしたり,残業や休日出勤を依頼するなどの状況は,偽装請負だと評価される可能性が高いです。

(a)偽装請負の問題の所在

情報システム部門では,形式的にはベンダ・ユーザ間でシステムの運用・保守に関する「業務委託契約」等を締結して業務を受託し,当該契約に基づきベンダのSEがユーザの事務所等に常駐して業務を行うことになっているものの,その実態は,常駐するSEがユーザの一従業員のようにユーザの担当者から細かく指示を受けて業務にあたる,というケースがあります。ときには,設例のようにユーザの担当者が,受託先の常駐SEに対して残業や休日出勤を依頼していることもあります。

このような状況は,準委任等の法形式をとりながらも,その実態は,労働者派遣法が定める労働者派遣になってしまっているため,「偽装請負」と評価される可能性が高いです。

偽装請負は,労働者との関係での責任の所在が不明確になったり,労働者にとって適正な報酬や労働条件が確保されないなどの問題が生じ得るため,法令上,禁止されています。

(b)偽装請負の判断基準

偽装請負に該当するかどうかは,労働者の勤務の実態をみて判断されます。具体的な判断基準は,旧労働省告示(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示37号)。以下「37号告示」といいます。)および厚生労働省のガイドライン(労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド)において,整理されています。

37号告示では,下表のすべてを満たす場合には,適切な業務委託になるとされています。

一.
労働者への指揮命令を業務委託先事業主が行う
(1)業務遂行上の指揮命令 1.業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと
2.業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと
(2)勤怠管理上の指揮命令 1.労働時間(始業及び終業時刻,休憩時間,休日,休暇等)に関する指示その他の管理を自ら行うこと
2.残業,休日出勤等に関する指示その他の管理を自ら行うこと
(3)職場管理上の指揮命令 1.服務上の規律に関する指示その他の管理を自ら行うこと
2.勤務配置等の決定及び変更を自ら行うこと
二.
発注者から独立して業務処理を行う
(1)業務に関する資金等の自己調達,自己支弁
(2)事業主としての法的責任負担
(3)受託業務は次のいずれかに該当し,単なる肉体的労働力の提供でない 1.自己調達の機器,設備等を使用して業務を処理すること
2.自らの企画,専門的技術,経験に基づいて業務を処理すること

行政処分を行う否かの一次的な判断権を持つ監督官庁が上記基準により偽装請負か否かを判断している以上,実務上は37号告示に照らして「偽装請負」と評価されない体制を整えておくべきです。

(c)偽装請負と判断された場合の効果

偽装請負だと判断されてしまうと,指導,改善命令,許可取消し等の行政処分の対象となったり(労働者派遣法第49条1項,同法第14条1項2号など),刑事罰の適用対象にもなります(労働者派遣法第59条2号,同法第60条1号)。

また,派遣先において,偽装請負の状態になっていることを知りながら労働者を受け入れている場合は,派遣労働者の派遣会社における労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込み(直接雇用の申込み)をしたものとみなされる可能性もあります(労働者派遣法第40条の6第1項5号)。

(d)偽装請負と評価されないために

偽装請負だと評価されることを避けるには,37号告示,厚労省のガイドラインに従って,契約書上の文言だけでなく,業務遂行の実態も請負・準委任となるようにすることが大事です。具体的には,委託者側からの作業指示は,ユーザの責任者を通じてのみ行うことが大原則となります。また,Qにあるように,ユーザの担当者が常駐SEに対して残業・休日出勤の依頼をするのではなく,労働者の労務管理はベンダ側で行うことも重要なポイントの一つです。

もっとも,上記のような運用では,システムの運用・保守業務がスムーズに回らない可能性もあるでしょう。この不都合は,契約の形態を,労働者が派遣先において指揮命令を受けることを前提とする(労働者派遣法2条1号)労働者派遣契約に変更することで回避できます。ただし,この場合,ベンダは労働者派遣法に基づく規制を受けることになりますので,留意が必要です。

(弁護士 永里佐和子 H29.3.31)