平成30年の著作権法改正により機械学習を行うための環境が整備されたと聞きました。以前から日本では機械学習が行い易い環境にあると言われていたと思うのですが,平成30年の著作権法改正で何が変わったのでしょうか?

平成30年の著作権法改正により,①代数的な情報解析や幾何学的な情報解析を目的としたディープラーニングに著作物を利用すること,②情報解析を行う他社のために著作物を含むデータセットを作成し,販売すること,③情報解析の結果とともに一定の限度で著作物を提供すること等が可能になりました。

1 はじめに

日本の著作権法には平成21年改正で設けられた47条の7という規定が存在したことから,諸外国に比べて著作物を利用した機械学習が行いやすい環境にあるといわれていました。今般,平成30年の著作権法改正により同条は30条の4第2号などに発展的に移行しており,同改正後は機械学習に関する環境はさらに整備されたものといえます。

2 平成30年の著作権法改正(柔軟な権利制限規定の整備)により可能になったこと

平成30年の著作権法改正では「柔軟な権利制限規定」と呼ばれる規定が整備されました。これにより,同改正前と比べてたとえば以下のような点で機械学習が行い易くなったといえます。

①「統計的」な解析以外の情報解析のために著作物を利用することが可能に
平成30年改正前は,「統計的」な情報解析のために著作物を利用することが許容されていました(改正前著作権法47条の7)。これに対し,改正後は「統計的」という限定なく「情報解析」の用に供する場合には著作物を利用してよい,という規定になりました(著作権法30条の4第2号)。
この変更により,代数的な情報解析や幾何学的な情報解析の用に供するために著作物を利用することも可能になりました。

②情報解析を行う他社のために著作物を利用したデータセットを作成・販売することが可能に
平成30年改正前の47条の7は,「情報解析…を行うことを目的とする場合には」と規定し,情報解析を行う者が自ら著作物を記録等してデータセットを作成することを許容していました。他方,情報解析を行う他社のために他の企業が著作物を複製等してデータセットを作成・販売することは認められていませんでした。
これに対し,平成30年改正後の著作権法30条の4第2号は,上記文言を「情報解析…の用に供する場合」に変更しました。これにより,情報解析を行う他社のために著作物を利用した学習用データセットを作成・販売したり,情報解析を行う複数の事業者間でデータセットを共有することが可能になりました。

③情報解析の結果とともに著作物を提供すること等
平成30年改正前の著作権法47条の7は,情報解析の結果とともに著作物を提供することは認められていませんでした。
これに対し,平成30年改正後の著作権法47条の5第1項2号は,それが「軽微」といえる範囲であれば,情報解析の結果提供に付随して著作物を提供等することが可能であると規定しています(47条の5第1項2号)。
論文剽窃検証サービスを例にとりますと,検証対象である論文のテキストデータと既存の他の論文等のテキストデータを照合し,両者の一致点の有無や数,検証対象である論文中において一致点が占める割合等の結果を導出・提供するとともに、その解析結果を確認するために必要な範囲で,既存の他の論文等を提供するなどといった態様が考えられます。

2019年9月19日