ウェブサイト上で公開されているデータをプログラムにより自動で取得し(スクレイピング、クローリング)、AIに入力することにより学習させることを検討しています。このようなデータ利用は問題があるでしょうか。

著作権法上、このようなデータ利用は原則として許容されています。他方で、取得先のウェブサイトによっては、このようなデータ取得行為やデータ利用行為が利用規約によって禁止されている場合もあります。このような場合に、利用規約違反の問題が生じるのでしょうか。利用規約と著作権法のいずれが優越するのか、いわゆるオーバーライド問題が生じます。


1 法令上の問題点

 法令上、ウェブサイト上で公開されているデータを利用する場合、主に著作権法が問題となります。
 この点、そもそも利用するデータが著作物か否かという問題や、海外のウェブサイトから取得する場合に日本の法令が適用されるのかという問題もありますが、ここでは、当該データが著作物であり、日本の著作権法が適用される日本のウェブサイトから取得すると仮定して、これを利用する、つまり、取得や利用の際に複製・改変等を行うことが著作権法上許容されるかという問題を検討します。
 この点、著作権法第30条の4では、以下のとおり「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」の利用を原則として許容しています(下線は筆者によるもの。)。

(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一(省略)
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合

 上記の規定からすると、著作物をAI学習に利用することが「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当するかという点が問題となりますが、一般的に「享受」とは、「著作物の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為」をいう(文章の閲読、音楽の鑑賞等)と考えられます。
 AI学習(AIにデータを入力し、情報を解析させるなど。)のための著作物の利用は、当該著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用行為であるとして、原則として著作権者の許諾なく行うことが可能といえます(文化庁「AIと著作権」:https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/pdf/93903601_01.pdf 参照。)。

2 契約(利用規約)上の問題点

(1)利用規約上の制限条項
 上記のように法令上利用が許容されるとしても、データを公開しているウェブサイトの利用規約において当該データの取得・利用が制限されている場合があります。
例えば、
「本サイト上の一切のコンテンツをあらゆる態様で利用することを禁ずる」
とか、
「RPA等のツールを利用した本サイトの利用(クローリング等)を禁ずる」
といった禁止条項が見られます。

(2)利用規約への同意(拘束)の有無
 この点、当該条項が有効かどうか検討する前に、そもそも当該利用規約にデータの利用者が拘束されるかという問題があります。
 ある利用規約が利用者との契約に組み入れられるためには①利用規約があらかじめ利用者に対して適切に開示されていること、及び、②当該ウェブサイトの表記や構成及び取引申込みの仕組みに照らして利用者がサイト利用規約の条件に従って取引を行う意思をもって相手方(ウェブサイト運営者)に対して取引を申し入れたと認定できることが必要であると整理されます(経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」:https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/reiwa3_itaku_designbrand.pdf 43頁等参照。)。
 そのため、利用規約が目立たない位置に掲示してある場合等、利用者が利用規約の存在を認識することが容易でないと考えられる場合等は、上記①要件が満たされず、当事者間で利用規約に基づく利用契約が成立していないと考えられます。
 また、ウェブサイトにアクセスした者であれば、事前に利用規約を確認しようがしていなかろうが、誰でもデータを閲覧・取得できるような構造になっているなど、利用規約に同意することがウェブサイト利用ないしデータの閲覧・取得の前提であることが適切に表示されておらず、利用者が当該サイト利用規約に従って取引を行う意思があると客観的に認定できない場合には、上記②要件が満たされず、利用者は利用規約に拘束されないと考えられます。

(3)定型約款へのみなし同意の有無
 次に、利用規約を「定型約款」とみて、利用者のみなし同意があり、これに拘束されないか(民法548条の2)ということも考えられます。
 まず、「定型約款」へ拘束される前提となる「定型取引[1]」を行うことの合意(定型取引合意)があるのかという点が問題となります。
 この点、「定型取引」をウェブサイト上のデータの提供・利用などと考えたとしても、上記のように誰でも閲覧・取得できる構造である場合には、提供者・利用者間の定型取引合意が存在せず、利用者が定型約款に拘束されない可能性が高いです。
 また、仮に利用規約が「定型約款」といえ、かつ、定型取引合意があると考えたとしても、上記(2)記載の①②要件が満たされないような場合においては、「定型約款を契約の内容とする旨の合意をした」、又は、「あらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示」したとはいえず、やはり利用規約の個別の条項について、ウェブサイト運営者・利用者間で合意が成立したことになりません(前記経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」23頁以下参照。)。
 以上より、このような構造のウェブサイトにおいては、公開されているデータの利用が契約上も自由である可能性が高いといえます。

3 著作権法と利用規約のオーバーライド問題

 例えば、ウェブサイト上のデータを閲覧・取得するためには会員登録が必要であり、かつ、当該会員登録を行う際には、利用規約が明示され、これに同意しなければ会員登録できないという場合のように、上記2記載の構造のウェブサイトとは異なり、利用者が利用規約へ有効に同意しており、利用規約に拘束されると考えられる場合もあります。
 そうすると、契約上はデータの取得・利用が禁止されている一方で、上記1記載のように著作権法上データの利用が許容されるという状況が生じ得ます。
 そのような場合に、契約上の制限と法令上の許容のいずれが優越するか(言い換えれば、当該利用規約による禁止条項が法令により無効となるか)というオーバーライド問題があります。

この点は、様々な考え方があり、かつ、この点が争われた前例(裁判例)が乏しいため、決定的な結論は未だ出ていない状況です[2]
 よって、上記のように利用者の利用規約への有効な同意があると考えられるような場合には、利用規約による制限が著作権法の規定に優先すると考えるのが安全です。他方で、上記2記載のような構造のウェブサイトにおいては、そもそも利用規約に拘束されるものではなく、オーバーライド問題も生じないとして、AI学習のためのデータ閲覧・取得を自由に行うことが可能とも考えられるでしょう。

2023年11月14日


[1] 「定型取引」とは、ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいいます(民法548条の2柱書)。

[2] 「令和3年度産業経済研究委託事業(海外におけるデザイン・ブランド保護等新たな知財制度上の課題に関する実態調査)」別紙2「新たな知財制度上の課題に関する研究会報告書」:https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/reiwa3_itaku_designbrand.pdf 250頁では、「著作権法第30条から第49条までの規定は、法律で著作権を部分的に制限している(すなわちユーザーに対してその部分の利用を認めている)規定であるが、これらの規定は基本的には任意規定であり、契約で利用を制限することが可能であるとの解釈がある。しかしながら、著作権法上の権利制限規定がある部分についてユーザーの利用を制限している契約の条項は無効であるとの解釈も存在している。」と説明されています。なお、同条を任意規定と解釈しつつ、「AI学習等のための著作物の利用行為を制限するオーバーライド条項は、その範囲において、公序良俗に反し、無効とされる可能性が相当程度ある」と考える解釈もあります。

また、著作権法30条の4を強行法規と捉える解釈について、松田政行「柔軟な権利制限規定によるパラダイムの転換・実務検討・書籍検索サービスの著作物の利用ガイドライン」(コピライト No.718/Vol60)(2021年2月)22頁等があります。