サイト・アプリにおいて商品またはサービスの販売をする場合において,特定商取引法の広告表示規制が存在するということですが,その内容を教えてください。
特定商取引法の通信販売規制における広告規制は次のとおりの内容です。

(1)通信販売における広告規制

特定商取引法とは,事業者の所在がわかりづらかったり,不当な勧誘・広告が行われやすく消費者の被害が生じやすい類型の特定の商取引について,事業者・商品などの情報開示や不当な勧誘・広告などについて必要な規制をすることによって消費者の利益を保護することなどを目的とした法律です。

インターネット通販,ゲームアプリ内でのガチャその他インターネットを介した商品やサービスの取引は,特定商取引法上の「通信販売」に該当します。

特定商取引法は,事業者が「通信販売」を行う場合には,次のとおり,ウェブサイト・アプリに所定の事項の表示を義務付け(後記(2)),消費者を誤認させる誇大広告は禁止し(後記(3)),電子メールによる広告も規制しています(後記(4))。以下では,これらの広告規制を概説した上,広告規制に違反した場合における措置の内容(5)とその他の広告規制について説明します。

(2)義務的表示事項

「通信販売」は隔地者間の取引(離れた者同士の取引)であることから,対面の取引と異なり,消費者は,事業者の名称や連絡先など事業者に関する情報,取引の価格その他取引条件などについて容易に知ることができません。

このような「通信販売」の特性を考慮し,特定商取引法は,「通信販売」を行う事業者に対して,次に掲げる事項の表示を義務付けています(特定商取引法11条,特定商取引法施行規則8条)。

  • 商品・サービスの販売価格,送料
  • 商品・サービスの代金の支払時期と方法
  • 商品・サービスの引渡し時期または提供時期
  • 商品・特定権利の売買契約の申込みの撤回・売買契約の解除に関する事項(特約がある場合には,その内容を含む。)
  • 販売業者等の氏名,住所と電話番号(法人の場合は,このほかに代表者または業務責任者の氏名)
  • 申込みの有効期限があるときは,その期限
  • 商品・サービス等の販売価格以外に購入者等が負担すべき金銭があるときは,その内容と額
  • 商品に隠れた瑕疵がある場合の販売業者の責任についての定めがあるときは,その内容
  • プログラムや電気計算機を使用する映画等の商品・サービスを提供する場合には,その利用のために必要な電子計算機の仕様,性能その他必要な条件
  • 商品の販売数量の制限その他の特別の商品・サービス等の販売条件があるときは,その内容
  • 省略された広告表示事項につき,書面請求をした者に,当該書面にかかる金銭負担が発生するときのその金額
  • 電子メールで広告をするときは,電子メールアドレス

なお,上記の表示事項のうち,商品・特定権利の売買契約の申込みの撤回・売買契約の解除に関する事項(特約がある場合には,その内容を含む。)については,顧客にとって見やすい箇所において明瞭に判読できるように表示する方法その他顧客にとって容易に認識することができるよう表示する必要があります(特定商取引法施行規則9条)。申込みの撤回や契約の解除に係る事項は消費者が「通信販売」をするに当たり,重要な考慮要素となるためです。そのため,当該特約については,他の事項に埋没させないよう目立つ形(例えば,文字サイズを大きくしたり,着色をさせたり,画面スクロールすることなく見られるようにしたり,四角枠で囲むなど他の表示事項と区別して表示したりすることなど)にする工夫が必要です。なお,各商品ページに記載することが望ましいですが,例えば,全ての商品に適用される共通のルールについて説明したページに当該特約を目立つ形で表示することも考えられるでしょう。

(3)誇大広告の禁止

ア 概要

事業者は,通信販売の取引条件等について広告をする場合,次の事項について,著しく事実に相違する表示をし,または実際のものよりも著しく優良であり,若しくは有利であると人を誤認させるような表示が禁止されます(特定商取引法12条)。

  • 商品の種類・性能・品質・効能,役務の種類・内容・効果,権利の種類・内容・効果
  • 商品・指定権利の売買契約の申込みの撤回・売買契約の解除に関する事項(特約がある場合には,その内容を含む。)
  • 商品,権利,役務,販売業者等の営む事業についての国,地方公共団体,通信販売協会その他著名な法人その他の団体または著名な個人の関与
  • 商品の原産地・製造地・商標・製造者名
  • 上記(2)の義務的表示事項

「著しく」に該当するかの判断は,社会一般に許容される程度を超えて事実に相違する表示,または,社会一般に許容される程度を超えて実際のものよりも著しく優良等であると人を誤認させるような表示をいいます(「特定商取引に関する法律第6条の2等の運用指針」参照)。「著しく」は,個々の広告について判断されることとなりますが,例えば「一般消費者が広告に書いてあることと事実との相違を知っていれば,当該契約に誘い込まれることはない」等の場合は,該当するとされています(「特定商取引に関する法律等の施行について」第3節4)。

イ 不実証広告規制

主務大臣は,広告をした販売業者等に対し,期間を定めて,当該広告において表示された内容の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ,この場合において,当該販売業者等が当該資料を提出しないときは,当該広告において表示された内容について実際のものとは異なるものであること等の具体的な立証を行うまでもなく,当該広告は誇大広告とみなされるという手続規制があります(特定商取引法12条の2)。実証されていなくても規制対象となることから,「不実証広告規制」とも呼ばれます。

「合理的な根拠」となる要件は,次の1と2を満たすことが必要です。

  1. 提出資料が客観的に実証された内容のものであること
  2. 広告において表示された性能,効果,利益等と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること

1の提出資料が客観的に実証された内容のものであるか否かは,

  1. 試験・調査によって得られた結果
  2. 専門家,専門家団体若しくは専門機関の見解または学術文献資料が客観的に実証された内容のものであること

のいずれかに該当する必要があります。

そして,資料の提出期間は,主務大臣から資料提出要求があってから15日以内とされています。この期間は,正当な理由があれば延長することが可能ですが,新規・追加的な試験・調査を実施する必要があるなどの理由は,正当な事由とは認められません。したがって,通信事業者は,裏付ける合理的な資料を有した上で広告を実施する必要があります。

(4)電子メール広告規制

特定商取引法の通信販売規制には,電子メール広告の規制があり,電子メール広告の可否についてのオプトイン規制とオプトアウト規制がある他,記録の保存義務などが事業者に課せられます。なお,電子メール広告規制としては,特定商取引法の通信販売規制の他に,特定電子メール送信の適正化等に関する法律が,電子メールの送受信上の支障を防止する観点から所要の規制をしています。

ア オプトイン規制

販売業者等は,次の場合を除き,商品・サービス等の販売条件等について,その相手方となる者の承諾を得ないで電子メール広告をすることが禁止されます(特定商取引法12条の3第1項)。

  • 相手方となる者の請求に基づく場合
  • 商品・サービス等の売買契約・役務提供契約の申込み・締結をした者に対する申込み内容・契約内容・契約の履行に関する重要事項の通知に付随する場合
  • 上記のほか,電子メール広告の提供を受ける者の利益を損なうおそれがないと認められる場合
イ オプトアウト規制

また,販売業者等は,電子メール広告をするときは,相手方が電子メール広告の提供を受けない旨の意思を表示するために必要な事項として電子メールアドレスやURLを当該電子メール広告の本文に容易に認識できるように表示しなければなりません(特定商取引法12条の3第4項,特定商取引法施行規則11条の6.詳細は,「電子メール広告をすることの承諾・請求の取得等に係る『容易に認識できるよう表示していないこと』に係るガイドライン」参照)。

そして,相手方から電子メール広告の提供を受けない旨の意思の表示を受けたときは,電子メール広告をしてはならないこととなります(特定商取引法12条の3)。

ウ 保存義務

相手方の承諾を得,または相手方から請求を受けたことの記録については,3年間保存しなければなりません(特定商取引法第12条の3第3項,特定商取引法施行規則11条の5)。

(5)違反に対する措置

上記(2)から(4)で説明した,義務付表示規制,誇大広告規制または電子メール広告規制に違反した場合には,必要な措置をとるべき指示や業務停止命令等が行われることがあります。

指示の法的性質は,行政指導ですが,指示がされた場合には公表もされることとなるため企業のレピュテーションに影響があります。指示に従わない等の場合には,業務停止命令等が行われます。

措置を行う主体は,消費者庁長官,経済産業局,都道府県知事であり,全国的に被害が及んでいる事案等においては,消費者庁長官(経済産業局)が措置を行い,都道府県域レベルの事案であれば都道府県知事が措置を行うこととなります。

(6)その他の広告規制

今回特定商取引法の通信販売規制における広告規制について説明しましたが,通信販売によって商品やサービスを提供する場合には,特定商取引法の広告規制以外にも,業種横断的に適用される景品表示法・不正競争防止法の不当表示規制を遵守する必要があります。また,商材によっては,特別な表示規制の適用があり,例えば,通信販売の方法によって健康食品を販売するのであれば,健康増進法や医薬品医療機器等法の表示規制を受ける場合もありますので,他の広告規制についても十分確認をする必要があります。

(弁護士 染谷隆明 H29.3.31)