競合他社が自社商品と当社商品の品質を比較する広告を掲載しています。当社から、当該他社に比較広告をやめさせることはできるでしょうか。

 自社製品と他社製品を比較する広告(以下「比較広告」といいます。)を行うことから直ちに違法であるとはいえませんが、広告の内容が適切に実証されていないものや、不正確・不公正なものなどは、不当表示として消費者庁に処分を求めたり、不正競争行為として直接差止めを請求したりすることができる場合があります。


1 景品表示法上の規制

 景品表示法第5条では、商品又は役務(以下「商品等」といいます。)の価格その他の取引条件について、競合他社のものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認される表示(以下「不当表示」といいます。)を不当表示として規制しています[1]
 比較広告については、以下の3要件を全て満たすものでなければ不当表示に該当すると考えられています(消費者庁「比較広告に関する景品表示法上の考え方」https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/100121premiums_37.pdf 以下「消費者庁ガイドライン」といいます)。

ア 比較広告で主張(言及)する内容が客観的に実証されていること。
イ 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること。
ウ 比較の方法が公正であること。

(1) ア「比較広告で主張(言及)する内容が客観的に実証されていること」について

 まず、アの要件を充足するためには、比較広告で言及する事項の範囲の実証が必要となります。
 加えて、実証は、比較する商品等の特性について確立された方法や、社会通念上及び経験則上妥当と考えられる方法によって、上記実証対象の事実が存在すると認識できる程度まで行われている必要があります。
 なお、当該実証は、中立性の観点から、広告主と関係のない第三者が行った調査の結果を用いることが望ましいとされています。

(2) イ「実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること」について

 イの要件について、例えば、実証の根拠となる調査が一定の限られた条件の下で行われている場合には、単に数値や事実といった調査結果のみを表示するのではなく、当該限られた条件の下での比較として引用する必要があります。
 調査結果の一部のみを引用する場合も、広告主の恣意的な判断で取り上げられ、当該調査結果の本来の趣旨とは異なる形で引用する場合、不当表示となるおそれがあります。
 また、調査機関、調査時点、調査場所といった調査方法に関するデータも併せて広告中に表示すべきであると考えられています[2]

(3) ウ「比較の方法が公正であること」について

 適切な実証、実証結果の引用を行ったとしても、比較の方法が不公正である場合には、ウの要件を充足せず、不当表示となるおそれがあります。
 ③の要件の充足性は、表示事項や比較対象の恣意的な選択がないか、通常表示されるべき短所を殊更非表示としていないかなどといった事情を考慮して判断します(ただし、上記の事情は一例であり、他にも様々な事情を考慮して総合的に判断するものと考えられます。前掲消費者庁ガイドラインご参照)。

2 不正競争防止法上の規制

 次に、比較広告は、不正競争防止法による規制も受ける可能性があります。
 例えば、同法では、以下のような行為は、「不正競争」と定義され、規制されています。

・品質等誤認表示:商品の品質等について誤認させるような表示等する行為(第2条第1項第20号)
・虚偽の事実の陳述流布:競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知・流布する行為(第21号)

 上記景品表示法により不当表示として規制される比較広告は、その広告対象となる商品等の品質等について、競合他社のものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものであり、品質等誤認表示に該当する可能性が高いといえます。
 また、当該比較広告は、不当表示により相対的に競合他社の製品が劣っているとの誤認を与えるものであり、虚偽の事実の陳述流布にも該当する可能性が高いといえます。

 このような比較広告の不正競争行為該当性が争われた裁判例として、知財高判平成18.10.18平17年ネ第10059号[キシリトールガム事件]があります。

 同時案では、歯の再石灰化促進効果を持つとされるガムに関する広告における、

(当該ガムは)
「一般的なキシリトールガムに比べ約5倍の再石灰化効果を実現」

 との表示について、「一般的なキシリトールガム」に該当するガムの販売業者が、当該表示は上記品質等誤認表示及び虚偽の事実の陳述流布に該当すると主張して、当該表示の使用差止め、損害賠償等の請求を行いました。

 当該事案では、当該広告の根拠とされた実験結果の合理性が争われ、裁判所は、再現性が認められず(肯定も否定もできない)、当該広告には合理的な根拠を欠くとして、不正競争であることを認めました。

 このように、一般的に認められているような実験方法による実験結果を根拠とする表示であっても、当該実験結果に再現性が認められない場合には、不正競争に該当してしまうおそれがあります。
 したがって、広告主、広告業者やマーケティング会社は、表示の根拠となる実験について、その実験方法が適切であるかだけでなく、当該方法による実験結果についても再現性を有する確かな事実であるか吟味する必要があるといえます。

3 違法な比較広告にどう対応すべきか?

 ところで、上記各法令に違反するような比較広告において、あたかも自社製品が劣っているかのような表示をされている被害企業としては、どのような対応が可能でしょうか。

 まず、景品表示法による規制は行政規制であり、仮に競合他社が同法に違反していたとしても、基本的に、民間企業としてできる対応は、消費者庁に通報・情報提供するといったものに限られます(景品表示法に違反する不当表示をすることは、それ自体直ちに競争事業者に対する不法行為を構成するものではないとする裁判例(東京高判H16.10.19判時1904号128頁)もあります)。

 他方で、ある行為が不正競争防止法上にいう「不正競争」に該当すれば、当該「不正競争によって営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがある者は、当該不正競争行為の差止請求及び損害賠償請求を行うことができます(同法第3条、第4条)。

 したがって、問題となる比較広告の表示が、不正競争行為に該当する場合、比較対象とされた被害企業としては、当該比較広告を行っている企業に対し、当該比較広告の使用差止め及び損害賠償を請求することも選択肢の一つとなります(前掲[キシリトールガム事件]は、実際にこのような請求が認められた事案です)。

2022年12月26日


[1] 景品表示法は、「一般消費者」への表示、すなわちBtoC取引に関する規制です。もっとも、BtoB取引に適用される独占禁止法では、「不公正な取引方法」として指定されている「欺まん的取引行為」、すなわち、自己の供給する商品等又の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のもの又は競争者に係るものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引することが禁止されていますので(独占禁止法第19条、第2条9項第6号、昭和57年公正取引委員会告示第15号第8項)、BtoB取引であるからといって上記のような不当表示が全て許されるわけではありません。

[2] ただし、調査方法を適切に説明できる限り、広告スペース等の関係から、これらのデータを表示しないとしても特に問題ないとされています。