メタバース上でいわゆるデジタルツインの作成・提供を行う場合、著作権法上、どのような問題があるでしょうか。

大きく分けて、①デジタルツイン(本稿では、現実世界の建築物等をデジタルデータ化し、サイバー空間において再現したものと考えます)の元となる建築物等が著作物として保護されるか、②メタバース上のどのような利用行為が著作権法上問題となるか、③どのような場合に著作権者の権利が制限されるのかといった問題があります。


1 建築物等の著作物性

 まず、著作権法上、建築物等も「建築の著作物」(同法10条1項5号)として保護されることはあり得ますが、建築物は、人の居住等の実用目的・機能性の観点からの制約を受け、純粋な美術品のような創作性を発揮しにくいため、著作物として保護されにくいという傾向があります。
 例えば、以下のような公園に設置された遊具であるタコを模した滑り台について著作物であるか否か争われた事案で、裁判所は、タコを模した表現部分について、「滑り台の遊具」という実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えていないとして、著作物であることを否定しました[1]

(裁判所ウェブサイト:https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/798/090798_hanrei.pdfより。)

 他方で、デザイン性に優れた建築物等が著作物であると認められた例もありますので[2]、留意が必要です。

2 複製・翻案・著作者人格権侵害について

 仮に建築物等について著作物性が認められた場合、これをメタバース上で「複製」「翻案」すると、著作権侵害となります(著作権法21条、27条)。
 この点、メタバース上においてデジタルツインにより実物の建築物等を再現することが、複製(創作的表現の有形的再製、同法2条1項15号)・翻案(新たに創作的表現を付加することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得し得る別の著作物を創作すること[3])に該当するかという問題があります。
 デジタルツインにおいては、通常、実物の建築物等を「正確に」再現することを目指す場合が多く、このような場合、当該建築物等に表れている創作的表現がそのまま再製され、又はその本質的特徴を直接感得し得るといえ、複製・翻案に該当する例が多いといえます。なお、翻案のように元の著作物を改変する場合は、著作者が有する著作者人格権の一種である同一性保持権(20条1項)にも該当するおそれがあるので、特に注意が必要です。
 他方で、現実の位置関係や大きさなどのみを捉え、建築物等をデフォルメし、立方体等の単純な形状により表現しているような場合には、最早元々の創作的表現が再製され、又はその本質的特徴を直接感得し得るとはいえず、著作権侵害が認められない(一般的には、最早元々の著作物の創作的表現が残存しておらず、「改変」したことにもならないため、同一性保持権侵害にもならない)可能性があります。

3 権利制限規定について

ア 著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用について
 仮にデジタルツインにおいて著作物と認められる建築物等の複製・翻案が行われたとしても、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用は、自由に行い得ます(同法30条の4)。例えば、建築物等を著作物として鑑賞する目的が一切なく、現実の街並みをデジタルツインとしてコンピュータ上に取り込み、構造の解析・シミュレーションを行うなどという場合、上記規定が適用され、著作物と認められる建築物等の利用が許容される可能性があります。

イ 公開の美術の著作物等の利用について
 上記ア記載のほか、その原作品(デジタルツインの元となる建築物等)が、屋外の場所に恒常的に設定されているもの又は建築の著作物である場合、一定の場合を除いて自由に利用可能です(同法46条)。
 その利用態様にもよりますが、例えばデジタルツインに係るデータを無償提供する場合等、当該当該建築物等のメタバース上への再現が許容されることもあり得ると思われます。

4 再現する建築物等に「付随」する著作物の利用について

 建築物等に付随する著作物(いわゆる「付随対象著作物」)、例えば、建物の壁面に設置された彫刻やポスターも、当該建築物等とともにデジタルツインとしてメタバース上に再現される場合、当該付随対象著作物は、デジタルツインの作成に際して「付随して」利用の対象となる著作物として、複製等の利用行為が許容されることもあり得ます(同法30条の2)。
 ただし、作成するデジタル全体に占める付随対象著作物の割合、再現の精度等の要素に照らして「軽微な構成部分」といえるかなど、一定の要件があるため、「付随して」いるからといって全ての著作物の利用が許容されるわけではないという点について、留意が必要です。

5 おわりに

 以上のとおり、一口にデジタルツインの作成・提供といっても、その利用態様により、権利侵害の成否が大きく異なります。デジタルツインを作成・提供する場合は、事前に上記のような論点や著作権法上の規定について、よく理解し、個別の事案に即して慎重に検討する必要があります。

2023年5月31日


[1] 東京地判令和3.4.28判時2514号110頁、知財高判令和3.12.8令和3(ネ)10044号

[2] 東京地決平成15.6.1判時1840号106頁、東京地判平成29.4.27平成27(ワ)23694号、その控訴審である知財高判平成29.10.13平成29年(ネ)10061号等。

[3] 最判平成13.6.28民集55巻4号837頁等。