メタバース上で現実世界のモノを模したデジタルデータ(デジタルアイテム)を作成・提供する場合、著作権法や商標法上、どのような問題があるでしょうか

著作権法上は特にデジタルアイテムの著作物性、商標法上は特に現実世界の商品等との類似性が問題となります。
※関連記事:メタバースと知的財産権の接点①~③と重複する論点は割愛しておりますので、これらの記事も併せてご覧ください。


1 デジタルアイテムの著作物性

 「メタバースと知的財産権の接点②(デジタルツインと著作権)」でも述べたとおり、現実世界のモノについては、当該モノが衣服や道具等のように実用目的を有する場合には(いわゆる「応用美術」)、著作権法による保護が制約されています。具体的には、実用目的を達成するために必要な機能に係る構成と分離して、美的鑑賞の対象となり得る美的特性である創作的表現を備えているかどうかという観点から著作権法の保護が及ぶか否かが判断されます。

 従前の例でいえば、ビジネスソフト上の予定表のデザインに係る画面UI等は、その予定表という実用目的から分離した創作的表現の選択肢が狭く、著作物性が認められにくいとされています。

 ※以下の記事も併せてご覧ください。
「ソフトウェア,ITサービスがパクられたときの対応(2)GUIの類似」

 それでは、メタバース上のデジタルアイテムはどうでしょうか。メタバース上のデジタルアイテムは、現実世界のモノと比べて、実用目的による制約が少なく、創意工夫の余地が広いようにも思われます(例えば、イスのデジタルアイテムを作ろうとした場合、現実世界における「座る、寄りかかる」といった実用目的は問われませんので、座面の形状に凹凸があったり、背もたれが寄りかかりにくくても問題なく、それだけ美的鑑賞の対象となり得る美的特性を表現し易いということになるかもしれません)。
 なお、デジタルデータをいきなり3Dで作成する場合でなく、まずは2Dで作成し、これをもとに3Dデータとして立体化するという場合も少なくないですが、この場合、2Dイラストが原著作物、3Dデータが二次的著作物という関係になり、利用者側としては、いずれの著作権者との関係でも権利侵害がないよう留意する必要があります。

2 現実世界の商品等とデジタルアイテムの類比について

 商標権の効力は、指定商品等(商品・役務)と同一又は類似の商品等についての使用にのみ及びます(商標法25条、37条等)。
 そのため、たとえば、指定商品を現実世界の商品等(衣服)とする登録商標に係る商標権の効力は、これを模したデジタルアイテム(アバターが着用するバーチャルドレス)にまで及ぶか問題となります。
 商品等の類似性は、同一又は類似の商標が使用された場合に、それらの商品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により商品等に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又は販売にかかる商品と誤認されるおそれがあるか否か(つまり、商品等の出所の混同を生じるおそれがあるか)によって判断されます。
 この点、近年では、現実世界の商品の販売者が、これを模したデジタルアイテムをメタバース上で販売するケースもあり、また、現実世界の商品とデジタルアイテムとの間で、用途・機能が重なる部分もあります(例えば、現実の衣服とバーチャルドレスとでは、自分の身体を着飾り、自己表現のツールとして使用するという点で一致しているようにも思われます)ので、今後は、出所の混同が生じるとして、これらの商品等が同一又は類似と判断されるケースも登場するかもしれません。
 先例的なものとして、米国の事案ではありますが、現実世界の著名なブランドバッグを模したデジタルアイテム(NFT)をインターネット上で販売していた者に対し、当該バッグに係る権利者が、商標権侵害等を理由として、その差止等を請求した事案[1]で、当該デジタルアイテムが芸術作品というより商品であり、権利者の商標権を侵害するとし、当該請求が認められたとの報道があり、現実世界の商品とデジタルアイテムとが類似するかのような判断をした事例として、参考になります。

3 おわりに

 以上のように、現実世界の商品等とデジタルアイテムとでは、著作権・商標権等の知的財産権の取扱いが異なる部分がありますので、デジタルアイテムの販売・提供を行う場合には、これらの異動に着目して、他人の権利を侵害しないか、逆に、他人に権利を行使し得るのか判断する必要があります。

2023年12月18日


[1] Hermes International et al v. Rothschild, No.1:2022cv00384