メタバースにおいて現実世界のモノを模したデジタルデータ(以下「デジタルアイテム」といいます。)を作成・提供する場合、不正競争防止法(以下「不競法」といいます。)上、どのような問題があるでしょうか。

例えば、現実世界における他人の周知・著名な「商品等表示」(他人の商品・営業に係る表示のこと。商品名はもちろん、店舗の外観等も商品等表示として認められることがあり得ます。)をメタバース上のデジタルアイテムについて使用することは不競法違反となり得ます。また、近年の法改正において、デジタル空間における商品形態の模倣行為も不競法違反の対象となりました。


1 不競法2条1項1号、同2号について

(1)不正競争行為について
 不競法2条1項1号、同2号では、他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されている(周知・著名な)ものと同一又は類似の表示を使用し、その他人の商品・営業と混同(需要者が、各商品等の出所について、直接の営業主体が同一であると誤認するような狭義の混同のみならず、同一グループ(企業)に属するような関係があると誤信させるような広義の混同も含みます。)を生じさせるおそれのある行為について、不正競争であるとして規制しています。
 当該行為には、商品等の譲渡や輸出入のほか、「電気通信回線を通じて提供」する行為、すなわち、デジタル空間において商品等を提供する場合も含まれており、メタバース上における行為も適用対象であると考えられます。

(2)具体例
 メタバースにおいて不競法2条1項1号、2号が適用される具体例としては、例えば、メタバース上で販売されるデジタルアイテムに現実世界で販売されている、周知な商品の商品名が表示されている場合等が考えられます。
 不正競争防止法の規制では、商品・役務が同一又は類似することまでは求められておらず、上記のとおり、商品・役務の出所の混同のおそれがあればよいため、需要者が、現実世界の商品と、デジタルアイテムがそれぞれ同一の企業又は同一グループ企業から販売されていると誤信するおそれがあれば足ります。
 近年では、現実世界の商品を販売するメーカーが、メタバース上のデジタルアイテムを提供する例も増えておりますので(例えば、衣料品メーカーがメタバース上のアバターに装備するバーチャルドレス)、上記のような混同のおそれは認められ易くなっているように考えられます。
 また、商品の形態や店舗の外観等についても、周知性・著名性に加えて、客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴(特別顕著性)を有している場合には、例外的に「商品等表示」として保護される、すなわち、上記不正競争防止法2条1項1号及び同2号の規制が及ぶことがあり得ます。
 具体例としては、例えば、飲食店を経営する債権者が、自店舗の外観と類似する建物で飲食店を経営する債務者に対し、当該店舗外観が商品等表示であるとして、不競法2条1項1号又は同2号に該当する旨主張して、差止請求権を被保全権利として、当該表示を差し止める旨の仮処分命令を求めた事案では、債権者の店舗外観に特別顕著性、周知性が認められるとして、当該請求が認められた事案があります(東京地決平28.12.19平成27年(ヨ)第22042号)。

2 不競法2条1項3号について

(1)不正競争行為について
 不競法2条1項3号では、同1号、2号のように周知性・著名性・特別顕著性を要さず、他人の商品の形態を模倣(他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいいます。同5項。)した商品を譲渡、輸出入等する行為が不正競争であるとして規制されています。
 上記のとおり、不競法2条1項3号は同1号、2号と比較して要件が緩やかであり、使い勝手のよい規定に見えますが、模倣品が日本国内において最初に販売された日から起算して3年以内の行為についてのみ適用され(同19条1項5号)、当該期間を経過した後に模倣品を譲渡等する行為は規制されません。
 したがって、一般に商品のライフサイクルが短いために意匠権等による保護と馴染みにくい一方で、形態が模倣されやすいという特徴を持つ衣服等について、比較的適用しやすい条項といえます。

(2)令和5年改正について
 従前、不競法2条1項3号は、同1号、2号と異なり、他人の商品の形態を模倣した商品を「電気通信回線を通じて提供」する行為を明記していませんでした。
 そのため、現実世界の商品を模倣したデジタルアイテムをメタバース上で提供したとしても、同号が適用されないのではないかという懸念がありました。
 そこで、今般の法改正[1]において、上記行為が追加されることとなり、メタバース上におけるデジタルアイテムへの規制も強化されました。

3 おわりに

 メタバース上の知的財産権侵害については、著作権法や商標法の適用が論点となりがちですが、以上のとおり、不正競争防止法の適用による規制が及ぶ可能性も十分あります。特に、今般の法改正により、今後のメタバース上における他社商品等の模倣品については、不正競争防止法の適用による対応が期待できます。

2023年12月18日


[1]不正競争防止法等の一部を改正する法律(令和5年6月14日法律第51号)