競合他社(Y社)のクラウドサービスの機能βが,当社(X社)が先行して提供を始めたクラウドサービスの最新機能αとほとんど同一です。Y社によるβの提供を止めることはできないでしょうか?
著作権,特許権,不正競争防止法に基づく差止請求が考えられます。それぞれの権利,法律によって条件が異なりますので,その事案でどの権利が使えるのかを個別に検討する必要があります。

X社がβの提供差止めを求める権利にはどのようなものがあり得るか検討してみましょう。

(a)著作権

著作権はアイディア・機能を保護する権利ではないため,機能が類似しているだけでは著作権侵害にはなりません。著作権侵害を理由にβの提供を差し止めるケースとしては,βが,αのソースコードの複製であるという場面が考えられますが(X社の元従業員が持ち出してY社に転職したというような場合に起き得ます。),それを法的手続において立証するためにはβのソースコードを入手しなければならず,実際には難しいことが多いと思います。

(b)特許権

アイディア・機能の保護は特許権の守備範囲です。特許権はこれまでにない斬新なアイディア・機能を保護するための権利ですので,X社がαについて特許権を取得していれば,特許権に基づくβの提供を差し止めることができるかもしれません。

ただし,ITサービスに関する特許権には,実際には競合他社に対して権利行使できない「使えない特許権」であることも少なくありません。たとえば,サーバ内部の動作に着目した権利の取り方をしてしまうと, Y社が管理するサーバがどのように動作しているのかが分からない限り,特許権侵害の主張ができないということもあります。

(c)営業秘密(不正競争防止法)

プログラムのソースコードは,通常,会社の重要な資産としてアクセスできる従業員を制限するなど,秘密情報として管理していることが多いと思います。そのような場合には,ソースコードが不正競争防止法に基づく「営業秘密」に該当する可能があり,同法に基づくβの使用差止めを求めることも考えられます。

もっとも,不正競争防止法で保護されるのはソースコードそれ自体であって,そのアルゴリズムは保護されないとの考え方もあります(大阪地裁平成25年7月16日平成23年(ワ)第8221号等参照)。この考え方によると,同法に基づきβの使用差止請求を為すためには,βがαのソースコードそのものを流用していることまで主張・立証する必要がありますので,留意が必要です。

(弁護士 高瀬亜富 H29.3.30)