最近、いわゆるステマが規制されたと聞きました。当社は、顧客やインフルエンサーにSNSやブログ等を通じて商品の感想を書いてもらうことがありますが、留意すべき点があるでしょうか。

第三者にSNSやブログ等を通じて商品の広告・宣伝をしてもらうことが直ちにステルスマーケティング(以下「ステマ」といいます。)[1]に該当し、違法となるわけではありません。ただし、その表示の内容・態様によって、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である場合、景品表示法(以下「景表法」といいます。)上の不当表示に該当する場合がありますので留意が必要です。


1 景品表示法上の規制

 従前、我が国においては、各企業や業界団体のガイドラインにおいて広告に広告主体を明示することなどを定めるなど、ステマに関する自主規制が進められていましたが[2]、今般、法令上もステマについて規制が及ぶことが明文化されました。
 すなわち、景品表示法5条3号では、いわゆる優良誤認表示(同条1号)、有利誤認表示(同条2号)の不当表示に加えて、「商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの」を規制しています。
 当該規制に関して、令和5年3月28日、「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」が上記3号に基づき内閣総理大臣により指定されました(内閣府告示第19号)。
 「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」とは、事業者が自己の供給する商品等の取引について行う表示(以下、「事業者の表示」といいます。)であるにもかかわらず、事業者の表示であることを明瞭にしないことなどにより、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難となる表示をいい、このような態様の表示が景品表示法により新たに規制されることになりました(運用基準:https://www.caa.go.jp/notice/entry/032672/)。

2 具体例

(1) 事業者の表示について
 上記定義を分解すると、①事業者の表示といえるか、②一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難となるといえるか、という2つの基準に照らして判断することになります。
 ①については、事業者の表示に該当するとされるのは、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合と考えられています。
 一般的には、例えば、事業者が第三者に対して当該第三者のSNS上や口コミサイト上等に自らの商品又は役務に係る表示をさせる場合は、「事業者の表示」に該当します。
 なお、このような場合に、事業者が第三者に対してある内容の表示を行うよう明示的に依頼・指示していない場合であっても、事業者と第三者との間に事業者が第三者の表示内容を決定できる程度の関係性があり、客観的な状況に基づき、第三者の表示内容について事業者と第三者との間に第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合には、事業者が表示内容の決定に関与した表示とされ、事業者の表示となると考えられています。
 逆に、事業者が第三者に対して自らの商品又は役務を無償で提供し、SNS等を通じた表示を行うことを依頼するものの、当該第三者が自主的な意思に基づく内容として表示を行う場合には、一般的には、「事業者が表示内容の決定に関与したとされない」といえるでしょう。
 事業者と第三者とのやり取りの態様、内容、事業者が提供する対価の内容、その提供理由、事業者と第三者との関係性の継続期間等の実態が判断のポイントとなります。

(2)一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難となるといえるかについて
 事業者の表示であることが認められる場合において、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であるかどうかに当たっては、一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっているかどうか、逆にいえば、第三者の表示であると一般消費者に誤認されないかどうかを表示内容全体から判断することになります。
 一般消費者にとって事業者の表示であることが明瞭となっていないものとしては、①事業者の表示であることが記載されていないものと、②事業者の表示であることが不明瞭な方法で記載されているものに大別されます。
 ①には、例えば、事業者がアフィリエイトプログラムを用いた表示を行う際に、アフィリエイトサイトに当該事業者の表示であることを記載していない場合等が挙げられます。
 他方で、②には、文章の冒頭に「広告」と記載しているにもかかわらず、文中に「これは第三者として感想を記載しています。」と事業者の表示であるかどうかが分かりにくい表示をする場合。あるいは、文章の冒頭に「これは第三者としての感想を記載しています。」と記載しているにもかかわらず、文中に「広告」と記載し、事業者の表示であるかどうかが分かりにくい表示をする場合等が挙げられます。すなわち、単に文章中に「広告」等と記載したのみでは、不当表示と判断されるリスクが存在することになりますので、留意が必要です。
 そのほか、事業者の表示であることを他の情報に紛れ込ませる場合(例えば、SNSの投稿において、大量のハッシュタグを付した文章の記載の中に「広告」、「プロモーション」等の表示を埋もれさせる場合)も②に該当し、不当表示と判断されるリスクがあり、また、事業者の表示であることを示す文言の表示位置や文字の大きさなども考慮要素となりますので、表示内容及び表示態様の双方について留意する必要があります。
 このように、今般の法令上の規制及びその運用基準においては、従前の自主規制(前記脚注2記載のものなど。)よりも詳細にステマが規制されています。したがって、従前の自主規制に従っていた事業者も、改めて今般の規制との異同を確認しておくのが有益といえます。

3 おわりに

 以上のとおり、ステマ規制の対象は相当な広範囲に及び、事業者が意図的に事業者である旨を秘匿して広告する場合ではなくても、当該規制が適用される可能性があります。
 よって、第三者に広告を依頼する際には、表示内容・表示態様を指定するガイドラインを策定し周知する、当該ガイドライン違反時の第三者へのサンクション(解約や損害賠償請求)を明確に定めておくなど、事業者において対策が必要となります。

2023年8月15日


[1] ここでは、ある事業者の広告であるにもかかわらず、一般消費者から見て、当該事業者の表示であることを判別することが困難である広告(ここでは主にインターネット上の広告を想定)を「ステマ」といいます。

[2] 例えば、JIAA「インターネット広告倫理綱領及び掲載基準ガイドライン」:https://www.jiaa.org/wp-content/uploads/2019/11/JIAA_rinrikoryo_keisaikijyun.pdf