インターネットを介したBtoCサービスの利用規約では,「当社は,お客様にあらかじめ通知することなくいつでも本利用規約を変更することができるものとします。」という趣旨の規定(以下,「変更条項」といいます。)をよく見ます。サービス提供者はこのような変更条項を根拠に,いつでもどのような内容にでも利用規約を変更し,従前からのサービス利用者に変更後の利用規約を適用することができるのでしょうか。

2020年4月1日に改正民法が施行されます。改正民法では約款に関連する規定が新たに整備されましたが,その中には,一定の❶実体的要件及び❷手続的要件を満たす場合には約款を変更して従前からのサービス利用者に変更後の約款を適用できる旨の条項があります。BtoCサービスの利用規約も同規定に則った対応が可能となります。

1 はじめに

従前,変更後の利用規約を従前からのサービス利用者に適用するためには,原則として改めてサービス利用者から同意を得る必要があると考えられています。これは設問のような変更条項がある場合でも同様です。契約は両当事者の合意があって初めて成立するのが大原則であるためです。もっとも,「同意」は必ずしも「明示」のものには限られないとされ「黙示」の同意でも良いと解されています。

これまでは,上記のような理解をもとに,ユーザの利益に配慮しながら,多くのサービス利用者との契約関係を一律に扱いたいというサービス提供者側の要請にも応えるべく,どのような場合に黙示の同意が認定できるかが議論されてきました。(経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(平成30年7月)Ⅰ-2-1)。この点については「利用規約はどこまで変更できるか(1) 」もご参照下さい。

他方,2020年4月1日に施行される改正民法では,「定型約款」(ここでは割愛しますが,通常の利用規約は「定型約款」に該当します。)に関する規定(改正民法第548条の2~第548条の4)が新設されました。そして,その中には,一定の❶実体的要件及び❷手続的要件を満たす場合には約款を変更して従前からのサービス利用者に変更後の約款を適用できる旨の条項があります(第538条の4)。BtoCサービスの利用規約についても同条に則った対応が可能ですので,以下,同条の内容を概説します。

2 改正民法における定型約款の変更に関する規定(改正民法第538条の4)について

改正民法第548条の4では,相手方の合意を得ることなく定型約款を有効に変更することができる要件が規定されています。この要件は,❶実体的要件(第1項)と❷手続的要件(第2項及び第3項)に分けることができます。概要を表にまとめると以下のとおりです。

以下,❶実体的要件及び❷手続的要件について,順に解説していきます。

(1)❶実体的要件(同条第1項)について

第1項は実体的要件として,以下の(ⅰ)又は(ⅱ)のいずれかの要件を満たすことを掲げています。

(ⅰ)定型約款の変更が,相手方の一般の利益に適合するとき
相手方の一般の利益に適合するときとは,例えば,利用者の利用料を減額する場合や利用者に資する権利等を付与する場合(利用できるサービスの拡充等)が考えられます。

(ⅱ)定型約款の変更が,契約をした目的に反せず,かつ,変更の必要性,変更後の内容の相当性,この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき
定型約款の変更が(a)契約をした目的に反しないこと,および(b)合理的である
ことと定められています。

(a)契約をした目的に反しないか否かは,利用者が契約をした主観的な目的ではなく,契約の両当事者で共有された目的に反しないかで判断されます。

(b)合理的であるか否かは,規定のとおり「変更の必要性(①),変更後の内容の相当性(②),この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容(③)その他の変更に係る事情(④)に照らして」判断されることになります。この①ないし④については,以下のように理解することができます。

①「変更の必要性」が認められる典型例は,関連法令の成立や改正,経済・社会情勢の変動等に伴い,定款変更の必要が必要になる場合です。

② 「変更後の内容の相当性」の要件は,変更された内容が変更の必要性等と照らし相当であるか(利用者に過剰な制約や不利益になっていないか)により判断されます。例えば,関連法令の成立に伴い,一定の行為が規制された時に,その規制行為をはるかに超えて,利用者に不利益な利用規約の変更をする場合には,相当性が否定される方向に働きます。

③ 「この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容」については,利用規約を変更する場合の具体的な条件や手続きを規定しておくことが望ましいことになります。この点は改正民法の施行前でも利用規約作成の際に意識しておくことが有益です。

④ 「その他の変更に係る事情」については,例えば,利用者の不利益になる変更に際して,不利益の大小や性質に鑑み,その不利益を低減する措置が取ることが重要であると考えられます。不利益を低減する措置としては,利用規約の変更を承諾しない利用者に対してペナルティーなしに解約することができる措置や,利用規約の変更を利用者に告知してから十分な期間を取って利用規約を変更すること等が考えられます。

(2)❷手続的要件(同条第2項及び第3項)について

定款約款を有効に変更するための手続的要件としては,①定型約款を変更する旨,②その変更内容,③変更の効力発生時期を周知することが規定されています(同条第2項)。

①②③を周知する方法としては,「インターネットの利用その他の適切な方法」(同条第2項)によってされる必要があります。インターネットの利用による周知は,インターネット上の利用者の利用ページにおいて,利用者が見やすい場所に告知する方法が一般的であると考えられます。もっとも,定款約款の変更内容によりますが,その変更内容が利用者に十分に不利益になる場合には,各利用者に対して電子メールで連絡する方法が望ましい場合があると考えられます。

なお,利用者に対する周知は,利用者に有利な変更の場合(上述の(ⅰ)の場合)を除き,変更の効力発生時期までに完了しておく必要があります(同条第3項)。変更の効力発生時期までに周知が完了しなかった場合には,変更約款の変更は有効とならず,再度,効力発生時期を定めて周知をする必要があります。

3 おわりに

以上のように,改正民法(2020年4月1日施行)のもとにおいては,利用者の合意なく利用規約を有効に変更するためには,一定の❶実体的要件及び❷手続的要件を満たす必要があります。改正民法施行後に利用規約を変更して既存ユーザに変更後の規約を適用しようとする際には,各要件について慎重に検討してください(無茶な利用規約の変更・既存ユーザへの適用を行ってしまうと,「炎上」してしまうリスクがありますので,慎重な対応が重要です。)。

2019年9月4日