日本でもGoogle Booksのような書籍検索サービス(予め多数の書籍をデジタルデータ化した上で,キーワード検索に応じて当該キーワードが記載されている書籍に関する書誌情報や当該キーワードが掲載されているページ数等を提供するとともに,当該結果の提供に付随して当該キーワードを含む文章の一部分を提供するようなサービス)を提供することができるようになったと聞きましたが,本当ですか?

平成30年の著作権法改正により設例のような書籍検索サービスを許容する規定が設けられました(著作権法47条の5)。この規定により,書籍検索サービスのほか,特定のフレーズやメロディに基づき曲名を検索する曲名検索サービス,特定のセリフが使用されている映像を検索する映像検索サービス等,色々な情報検索サービスが可能になると期待されています。以下,書籍検索サービスを例に説明します。

1 何が障害だったか?
設例のような書籍検索サービスを提供するためには,まずは書籍をデジタルデータ化することが必要です。しかし,これは著作物の「複製」(著作権法21条)に他ならず,著作権者に無断で行うことはできませんでした。また,インターネットを介して検索結果とともに文章の一部を提供することは著作物の「公衆送信」(著作権法23条)にあたり,これもやはり著作権者に無断で行うことはできませんでした。
著作権法に上記のような行為を許容する規定があれば話は別ですが,平成30年改正で著作権法47条の5が新設されるまでこのような規定は存在せず,日本ではGoogle Booksのような書籍検索サービスは著作権侵害と評価される可能性が高い状況でした。

2 平成30年著作権法改正で可能となった行為
このような状況の中,設例のような書籍検索サービスを含む種々の情報検索サービスを可能にするべく,平成30年著作権法改正により著作権法47条の5が新設されました。同条により,たとえば以下のような行為については著作権者の許可を得なくとも適法になし得るようになりました。

① 書籍検索サービスの提供に先立ち書籍をデジタルデータ化する行為
書籍検索サービスを提供する前提として必須の準備行為である書籍のデジタルデータ化(複製)が許容されました(同条2項)。ただし,同項によりデジタルデータ化(複製)できる著作物は,公衆への提供又は提示が行われたものに限られます。ざっくりと言いますと,まだ世に出回っていない文章は書籍検索サービスの対象とすることはできません。

② 検索結果(書誌情報等)ともにキーワードを含む文章の一部を提供する行為
検索結果(書誌情報等)の提供に付随して当該キーワードを含む文章の一部分を提供することも可能になりました(同条1項)。ただし,当該文章の提供は検索結果の提供に「付随した」ものといえることが必要であり,さらに「軽微」なものといえることが必要です。

3 サービス提供にあたって事業者がとるべき措置
上記のとおり一定の条件のもと著作権者の許諾を得なくとも適法になし得るようになった書籍検索サービスですが,サービスの設計の仕方によっては情報検索サービス(書誌情報の検索・提供等が主たる目的であり,文章の提供はこれに付随する軽微なものにとどまるサービス。)ではなく,コンテンツ提供サービス(文章の提供が主たる目的といえるサービス。)になってしまう恐れもあります。このようなサービスが違法であることは平成30年改正の前後を問わず変わりはありません。
このことと関連して,書籍検索サービスを提供する事業者は次のような措置を採らなければならないものとされていますので,注意が必要です(著作権法施行令第7条の4第1項3号,著作権法施行規則第4条の5参照)。

① 書籍検索サービスが著作権法が規定する要件に適合するものとなるよう,あらかじめ,当該要件の解釈を記載した書類の閲覧,学識経験者(学者,弁護士,弁理士等がこれにあたります。必ずしも外部の第三者である必要はありません。)に対する相談その他の必要な取組を行うこと

② 書籍検索サービスに関して問合せを受けるための連絡先その他の情報を,当該行為の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により明示すること

4 おわりに
書籍検索サービスを例に説明してきましたが,ここでの説明は曲名検索サービスや映像検索サービスにも同様に妥当します。今後,日本でも著作権法47条の5に基づき各種情報検索サービスが提供されていくでしょう。
もっとも,どのような場合であれば検索結果の提供とともに行われる著作物の提供が「付随」したものといえるのか,また,それが「軽微」といえるのかについてはサービスの内容に即して個別具体的に検討しなければなりません。ここで判断を間違えると著作権を侵害する違法なサービスとなってしまいます。このような事態を避けるという意味でも,上記3で説明した法令の要求を満たすという意味でも,専門家(学識経験者)への相談等が重要になってくると考えられます。

2019年8月21日