当社は,新しいビジネスモデルのインターネットサービスを検討中です。しかし,今までにないような新しいアイデアのサービスなので,何かしらの許認可が必要なのか?将来,法令違反だと指摘されて行政指導や行政処分をなされてしまうのか?…法令上,どのような規制がかかるのかわからない事項があります。法令違反リスクがクリアにならないとサービスを社会実装していくための資金調達も難しく,また,サービスが軌道に乗ってから規制されては当社が受けるダメージも大きいと思います。
「規制改革」と聞きますが,新しいビジネスモデルのインターネットサービスに取り組もうとする企業を支援する制度はないのでしょうか?

1.       はじめに

新たな事業を創出するときに,法令上の規制を確認することは欠かせません。
しかし,IoT(Internet of Things)やビッグデータ,AI(人工知能)などを用いて新しい事業内容を創出する場合,前例のないサービス内容であるがゆえに,法令への該当性や抵触性が判然としない場合が少なくありません。

そこで,このような新事業の創出時の悩みに対応すべく3つの支援措置が用意されています。ぜひ当該措置を利用して,新事業の社会実装を進めましょう。

2.       3つの支援制度の概要

その3つの支援措置とは,具体的には,①グレーゾーン解消制度,②新事業特例制度,および③新技術等実証制度(プロジェクト型サンドボックス)です。
グレーゾーン解消制度および新事業特例制度は,産業競争力強化法(平成25年法律第98号)に,プロジェクト型サンドボックスは,生産性向上特別措置法(平成30年法律第25号)に基づく制度になります。

これら3つの制度は,企業単位での規制改革スキームであり,以下の図 1のとおり,地域単位の規制改革スキームである「国家戦略特区」,および全国単位での規制改革スキームである「規制改革推進会議」とともに,規制改革を推進するために設けられている制度の一翼を担うものです。

図 1:各規制改革スキームの関係[i]

3.       グレーゾーン解消制度について

グレーゾーン解消制度とは,「事業者が,現行の規制の適用範囲が不明確な分野においても,安心して新事業活動を行い得るよう,具体的な事業計画に則して,あらかじめ,規制の適用の有無を確認できる制度」[ii]です。
ポイントは,「具体的な事業計画」と「あらかじめ」の2つです。
抽象的に規制の適用の有無を尋ねることはできません。そもそもどの法令に抵触しそうですか?というような漠然とした照会はできません。自社が検討中・計画中のサービス内容に沿って浮かび上がってきたグレーゾーン(不明瞭な事項)を照会して回答を得るための制度だからです。
また,すでにサービスインされている事業は対象外ですので,留意しましょう。

では,抽象的には照会できないというと,どれほどの具体性が必要なのでしょうか。
この点,提出が必要な書類について,その様式とともに,その記載例およびポイントが公表されており,これらが参考になります。

すなわち,具体性については,必要書類の様式に「解釈及び適用の有無の確認を求める法令の条項等」とあるように,どの法令のどの条項に関するグレー(不明瞭さ)を解消したいのかを明確にする必要があります。
今までの裁判や行政処分等において示されてきた法令解釈や適用の有無についてリサーチして,リサーチ結果に基づいて自社の照会事項を明らかにし,グレーゾーンを浮かび上がらせることが必要になります。このようなリサーチに不慣れだったり自信がなかったりするときは,弁護士に相談することを検討してみましょう。

また,グレーゾーン解消制度においては,照会者の同意が得られた照会書と回答が公表されています。

照会書の公表はあくまで事業者の参考のために行うものであり、他の類似の事業の適法性を保証するものではないという位置づけですが[iii],上記活用実績を見ることで,規制における考え方やポイントを知ることもできますので,類似の事業に関する回答はぜひチェックしてみてください。

あわせて,各省庁も,それぞれ本制度の利用状況を公表していますので,こちらも参考になるでしょう。

4.       新事業特例制度について

新事業特例制度は,新事業活動について,新しく「規制の特例措置」を提案し,特例措置を企業単位で整備してもらおうとするものです[iv]

「特例措置」を整備してもらう以上,生産性の向上または新たな需要の獲得が見込まれることが必要です。
また,新事業特例制度は,単に現行の規制を取っ払って欲しいという提案をするための制度ではありません。各種規制には規制することによって獲得しようとする目的があります。そこで,この制度を利用しようとする企業には,当該目的を達成するための別の方法を提案することが求められます。
当該目的を調べる方法はいろいろありますが,立法経緯から読み解いてより説得的な特例措置を検討・提案したいというときには,立法経緯のリサーチについて,弁護士に相談してみるのも一案です。

新事業特例制度の活用実績については,必要書類の様式および記載例・ポイントとともに公表されていますので,ぜひ参考にしましょう。

5.       新技術等実証制度(規制のサンドボックス)について

『プロジェクト型「規制のサンドボックス」』とも呼ばれる新技術等実証制度は,政府の成長戦略の一つとして,生産性向上特別措置法(平成30年法律第25号)により新たに創設された制度です[v]。「我が国産業の国際競争力の維持及び強化」を目的として,「短期間」に「集中的」かつ「一体的」に新技術等の実証を行おうとする施策です(同法第1条)。

この制度は,「まずやってみる!」を合言葉としており,まず期間や参加者を限定した「実証」をやってみて,データを集めて,そのデータをエビデンスとして最終的には全国規模の規制改革に繋げていく[vi]新たな規制改革のルートです。

図 2:プロジェクト型「規制のサンドボックス」の制度概要[vii]

上記のグレーゾーン解消制度および新事業特例制度と比べますと,この新技術等実証制度は,内閣官房に一元的窓口が置かれていること,また,革新的事業活動評価委員会の意見に基づいてプロジェクトごとに認定がなされることが大きく異なる特徴と言えます(図 2参照)。

今までの認定プロジェクトについては,成長戦略ポータルサイトに公表されています[viii]

6.       まとめ

上記で見てきたように,3つの支援措置にはそれぞれの目的・特徴があります。新事業創出時の規制に関する悩みに当たっては,これら3つの支援措置の活用も検討してみましょう。

図 3:3つの支援措置の違い[ix]

2021年6月3日


[i] 経済産業省『規制の壁を越えて新事業創出 プロジェクト型「規制のサンドボックス」』(https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/gaiyou_sandbox.pdf)より抜粋。
[ii] 経済産業省 経済産業政策局 産業創造課 新規事業創造推進室「産業競争力強化法に基づく企業単位の規制改革制度について」(https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/download/210416_gaiyou.pdf)。
[iii] https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/kyousouryoku_kyouka/shinjigyo-kaitakuseidosuishin/detail.html
[iv] プロジェクト型「規制のサンドボックス」・新事業特例制度・グレーゾーン解消制度(METI/経済産業省)
[v] 規制のサンドボックス制度|成長戦略ポータルサイト (kantei.go.jp)。なお,平成30年2月6日に閣議決定された「産業競争力の強化に関する実行計画」(2018年版)(https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/keikaku_honbun_180206.pdf)において,「Society 5.0 の社会実装を政府横断的に強力に推進する一元的な体制を構築」するという施策が示され,これを受けて,生産性向上特別措置法がつくられ,本制度が創設されました。
[vi] https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/underlyinglaw/sandboximage.pdf
[vii] 前掲注viより抜粋。
[viii] 前掲注vに同じ。
[ix] 前掲注ivウェブサイトより抜粋。