BtoBサービスの利用規約に当社の責任を免除又は限定する免責規定を設けようと考えています。免責規定を作成するにあたり注意すべき点を教えて下さい。

過去の裁判例には,免責規定の文言に即して免責規定が適用されるケースを限定的に解釈した例や,「当事者の通常の意思」を根拠にサービス提供者に故意又は重過失がある場合には免責規定は適用されないとした例があります。免責規定を作成するにあたっては,このような解釈の余地をなくすための工夫が必要です。

1 はじめに

各種サービスの利用規約では,サービス提供者の責任を免除ないし限定する規定が設けられることが多いです。この免責規定は,きちんと作成しておけば「いざ」という時にサービス提供者を守る楯になります。しかし,過去の裁判例にはせっかくの免責規定の適用が否定された例もあります。以下,そのような事例を紹介しつつ,どのように対応しておけばよかったのか対応策の一例を紹介します。

2 免責規定の適用を否定した裁判例

(1)免責規定はデータ消失事故には適用されないとした例 ~東京地裁平成13年9月28日判決~

原告はログハウスの建築請負を目的とする株式会社,被告はインターネットサービスプロバイダー事業を営む株式会社であり,レンタルサーバサービスの提供も行っていました。
原告は被告のレンタルサーバサービスを利用し,同レンタルサーバ上に原告のホームぺージを保有していました。あるとき,被告がサーバ上のファイルの移管作業を行っていたところ,原告のホームページが上記レンタルサーバから消滅し,原告のホームページが閲覧できない状態になってしまいました(以下「本件事故」といいます。)。
本件事故を受けて,原告が被告に対し損害賠償を求めたところ,被告はサービス利用約款(以下「本件約款」といいます。)に以下のとおり被告を免責する規定(以下「本件免責規定」といいます。)があるから,被告の損害賠償責任は本件免責規定の範囲内に限られる(≒本件約款30条により計算した金額に限られる)と反論しました。

  • 本件約款34条
当社は,契約者が●●インターネットサービスの利用に関して損害を被った場合でも,第30条(利用不能の場合における料金の精算)の規定によるほか,何ら責任を負いません。
  • 本件約款30条
当社は,●●インターネットサービスを提供すべき場合において,当社の責に帰すべき事由により,その利用が全く出来ない状態が生じ,かつそのことを当社が知った時刻から起算して,連続して12時間以上●●インターネットサービスが利用できなかったときは,契約者の請求に基づき,当社は,その利用が全く出来ない状態を当社が知った時刻から,その●●インターネットサービスの利用が再び可能になったことを当社が確認した時刻までの時間数を12で除した数(小数点以下の端数は切り捨てます)に基本料の月額の60分の1を乗じて得た額を基本料月額から差引ます。ただし,契約者は,当該請求をなし得ることとなった日から3ケ月以内に当該請求をしなかったときは,その権利を失うものとします。

しかし,裁判所は被告の主張を受け入れず,本件免責規定は適用されないと判断しました。理由は以下のとおりです。

・本件免責規定は契約者が●●インターネットサービスを一定期間継続して「利用」できなかった場合に関する損害賠償責任を制限する規定と解される。
・本件免責規定において被告が責任を負う場合として言及されている本件約款30条も,インターネットサービスを一定の時間連続して利用できない状態が生じた場合の基本料月額の控除を定めており,やはりサービスが一定期間継続して「利用」できなかった場合の責任について定めている。
・本件は,原告が作成開設したホームページが喪失したことにより損害を被った事案であり,通信障害等によりインターネットサービスの利用が一定期間連続して不能となった場合には当たらないから,本件免責規定は適用されない。

(2)故意又は重過失がある場合には免責規定は適用されないとした例 ~東京地判平成26年1月23日判決~

被告との間で原告のウェブサイトにおける商品受注システムの設計,保守等の委託契約を締結した原告が,被告製作のアプリケーションの脆弱性により原告ウェブサイトで商品を注文した顧客のクレジットカード情報が流失したとして,被告に対して損害賠償を求めた事案です。
被告は,原告との契約には以下のとおり被告の責任を限定する規定(以下「本件免責規定2」といいます。)があり,これが適用されると主張しました。

第29条
1 乙が委託業務に関連して,乙又は乙の技術者の故意又は過失により,甲若しくは甲の顧客又はその他の第三者に損害を及ぼした時は,乙はその損害について,甲若しくは甲の顧客又はその他の第三者に対し賠償の責を負うものとする。
2 前項の場合,乙は個別契約に定める契約金額の範囲内において損害賠償を支払うものとする。

しかし,裁判所は被告の主張を受け入れず,本件免責規定2の適用を認めませんでした。その理由は,権利・法益侵害の結果について故意を有する場合や重過失がある場合にまで本件免責規定2によって被告の損害賠償義務の範囲を制限することは,著しく衡平を害するものであって,当事者の通常の意思に合致しない,というものです。

3 上記2の判決を踏まえた免責規定作成上の注意点

2で紹介した裁判例では,せっかくの免責規定の適用が認められませんでした。では,サービス提供者としては上記2の判決を踏まえてどのような免責規定を作成するべきでしょうか。

まず,2(1)の裁判例は,免責規定の文言が「サービスの利用に関して損害を被った場合」にのみサービス提供者の責任を限定するように読めるものであったため,免責規定の適用が否定されてしまいました。このような結論を回避するためには,免責規定中には免除ないし制限される責任の種類・範囲を限定するような文言は入れないことが重要といえます。たとえば,以下のような修正案が考えられるでしょう。

本件免責規定 修正案
当社は,契約者が●●インターネットサービスの利用に関して損害を被った場合でも,第30条(利用不能の場合における料金の精算)の規定によるほか,何ら責任を負いません。 当社は,契約者が●●インターネットサービスに関して損害を被った場合でも,何ら責任を負いません。
※2項として本件約款30条との関係を整理する規定を追加することが考えられますが,割愛します。

次に,2(2)の裁判例では,「当事者の通常の意思」を根拠に,故意又は重過失がある場合には免責規定は適用すべきではないとされました。このような解釈を回避するためには,利用規約上,サービス提供者に重過失がある場合にも損害賠償責任が制限されることを明確に記載しておくこと(「当事者の意思」を明確に記載しておくこと)が考えられます。たとえば,次のような建てつけの免責規定が考えられます。

第●条
1 サービス提供者は悪意又は重過失がある場合を除き責任を負わない旨を規定。
2 サービス提供者が損害賠償責任を負う場合であっても,●か月分のサービス利用料が上限となる旨を規定。

上記のような規約であれば,規約の文言上,故意又は重過失がある場合の責任が明確に記載されていますから,それが「当事者の通常の意思」に合致しないとは言い難い(≒「当事者の通常の意思」を根拠とする裁判所の介入を回避しやすい)と思われます。

2019年9月10日