当社では,インターネットオークションサービスのサイトを開設しようと考えています。出品や落札に関する条件や,ID等の管理,不正目的への使用禁止など,サービス利用に際しての条件を定めておきたいと考えていますが,条件に効力を持たせるためには,サイト上に条件を掲載しておけば足りるのでしょうか。
利用者のサービス利用に対して利用規約の効力を持たせるためには,利用規約が利用者との契約に組み入れられる必要があります。具体的には,利用規約があらかじめ利用者に対して適切に開示されていることに加え,当該ウェブサイトの表記,構成,取引申込みの仕組みから,利用者が利用規約の条件に従って取引をする意思をもって申し込みをしたと認められることが必要となります。
また,消費者契約法などに抵触しないよう注意が必要です。

(a)利用規約が効力を持つためには?

オークションサイトなどインターネット上で各種サービスを提供するウェブサイトにおいては,ウェブサイトの利用にあたり,サイト運営者と利用者との間で利用条件を書面にした契約書が締結されることはほとんどありません。一般的には,サービスの利用条件を記載した,いわゆる「利用規約」がウェブサイト上に掲載されています。

このような利用規約が利用者に対して効力を持つためには,利用規約がサイト運営者と利用者との間の契約(※1)の内容に,その一部として組み入れられる必要があります。では,どのようにすれば,利用規約が契約の内容に組み入れられたといえるのでしょうか。
一般には,次の二つの要件が必要とされています。

  1. 利用規約がその内容を容易に確認できるよう適切に開示されていること
  2. 利用者が利用規約に従い契約を締結することに同意していると認定できること

以下では,それぞれの要件について検討します。

(b)1.利用規約がその内容を容易に確認できるよう適切に開示されていること

利用規約が適切に開示されていると認定されるためには,利用者が希望する場合に容易に利用規約が閲覧できるようウェブサイトを構成する必要があります。

例えば,取引の申込み画面(例えば,購入ボタンが表示される画面)に,スクロールする形で規約を全文見ることができるようにサイトを構成する場合があげられます。また,取引の申込み画面の見やすい場所(例えば,購入ボタンの近く)に,利用規約へのハイパーリンクを設けておき,それをクリックすれば容易に利用規約を閲覧することができるように構成する場合が挙げられます。

(c)2.利用者が利用規約に従い契約を締結することに同意していると認定できること

利用者が利用規約に従って契約を締結することに同意していると認定されるためには,ウェブサイトの表記,構成,取引申込みの仕組みから,利用者が利用規約の条件に従って取引をする意思をもって申込みをしたと認められることが必要となります。

例えば,ウェブサイトの利用申込みの際に,「申し込み」のボタンを押すために,「□利用規約に同意します。」のチェックをする必要があるようにサイトを構成する場合が挙げられます。また,「申し込み」ボタンを「利用規約に同意して申し込む」ボタンとし,ボタンを押すことで利用規約への同意を取り付ける方法も考えられます。

(d)利用規約が契約に組み入れられていない例

上記1~2のいずれかの要件が満たされない場合,利用規約は契約の内容に組み入れられません。
例えば,ウェブサイトの目立たない場所に小さくサイト利用規約へのリンクを張るような場合(要件1)や,利用者が申込みをするに際して利用規約への同意が全く求められない場合(要件2)などがあげられます。

(e)消費者契約法に違反する利用規約

利用規約が契約の内容に組み入れられる場合であっても,利用規約の条項が消費者契約法第8条,第9条などの強行法規に抵触する場合には,その限度で利用規約の効力が否定されることがあります。
また,具体的な法規に違反しない場合でも,利用規約中の利用者の利益を不当に害する条項については,普通取引約款の内容の規制についての判例理論や消費者契約法が消費者の利益を一方的に害する条項を無効としている趣旨等にかんがみ,無効とされる可能性もありますので,その観点からの検討も必要です。

さらに,消費者契約法第3条第1項においては,事業者に対して,消費者との契約の内容が「明確かつ平易なもの」となるように配慮する努力義務が課されています。それと同時に,事業者は,契約の締結を勧誘するに際して「消費者の理解を深めるために,消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない。」として説明の努力義務が課されています。
いずれも努力義務であるため,これに反したとしても,当然に利用規約の契約への組入れや利用規約の効力に影響はありません。しかし,具体的な事情によっては,事業者に損害賠償責任が課せられたり,契約に組み入れられた利用規約の有効性が制限されたりする可能性があり得ますので,注意が必要です。

(経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」Ⅰ-2-1参照)

※1
サイト運営者と利用者との間で契約が成立するためには,利用者が申込みをし,サイト運営者が申込みを承諾することが必要です。原則として両者の合意があれば足り,特別な場合を除いて,契約書のような書面は必要ありません。
例えば,利用者がウェブサイト上で,「申し込む」旨のボタンをクリックし,その後利用者に承諾通知メールが届いたような場合があげられます。インターネットオークションサイトのような継続的な利用サービスの場合には,利用者が会員登録の申込みを行い,サイト運営者から登録受付の通知メールを受け取るような手続が一般的です。

(弁護士 高岡 晃士 H29.2.28)