当社(「X社」)は、2年ほど前から、「uslf」との名称(当社の造語です。)でタピオカ入りドリンク(「本製品」)を販売しているのですが、最近、雑誌やTVに採り上げられるなどして、知名度も高まってきました。このため、マーケティング活動の一環で本製品専用のウェブサイトを立ち上げようとしたところ、すでにY社が「uslf」というドメイン名(「本ドメイン名」)を登録しており、本ドメイン名を使用したウェブサイトで本製品と類似したドリンクの販売を行っていることが分かりました。当社は、このような事態に非常に困惑しています。何かできることはないでしょうか。

不正競争防止法(不競法)に基づく損害賠償やドメイン名の使用差止請求が可能と考えられる他、JPNICの手続を利用してドメイン名の移転請求を行うことも考えられます。以下、前者の不競法に基づく請求について解説します。

第1 はじめに 不正競争防止法による救済
本件のような場合、X社は、Y社による本ドメイン名の使用が不競法2条1項19号に規定される不正競争に該当することを理由として、Y社に対し、本ドメイン名の使用等について、差止め(不競法3条)、損害賠償(不競法4条)及び信用回復措置(不競法14条)を請求できる可能性があります。また、本製品の名称が周知・著名と言えるような場合には、Y社の行為は、不競法2条1項1号・2号の不正競争に該当する可能性もあります。なお、不競法には、ドメイン名の移転を認める規定はありませんが、別途そのための手続が用意されていますので、この点は別稿で説明します。
以下では、ドメイン名の不正使用の場合に利用されることが多い不競法2条1項19号、同3条及び同4条の内容について説明していきましょう。

第2 不正競争防止法違反を主張するための要件
1. 不競法の規定
不競法2条1項19号は、以下の行為を不正競争として規定しています。

「不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的で、他人の特定商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをいう。)と同一若しくは類似のドメイン名を使用する権利を取得し、若しくは保有し、又はそのドメイン名を使用する行為」

ドメイン名の取得等の行為が上記の不正競争に該当し、その他一定の要件を充足する場合には、上述のとおり、このような行為を行っている者に対し、差止請求等が可能です。
以下では、当該不正競争の主な要件について、本件の事案を引用しつつ、説明します。

2. 要件①(不正の利益を得る目的で、又は他人に損害を加える目的)
(1) 意義
この要件については、MP3ドメイン名事件(東京地判平14.7.15判時1796号145頁)において、次のように判示されています。また、経済産業省 知的財産政策室編『逐条解説不正競争防止法』でも、同様の説明がされています。

まず、「不正の利益を得る目的」については次のとおりです。

「不正の利益を得る目的で」とは、「公序良俗に反する態様で、自己の利益を不当に図る目的がある場合」と解すべきであり、単にドメイン名の取得、使用等の過程で些細な違反があった場合等を含まないというべきである。

次に、「他人に損害を与える目的」については次のとおりです。

「他人に損害を与える目的」とは、「他人に対して財産上の損害、信用の失墜等の有形無形の損害を加える目的のある場合」と解すべきである。例えば、①自己の保有するドメイン名を不当に高額の値段で転売する目的、②他人の顧客吸引力を不正に利用して事業を行う目的、又は③当該ドメイン名のウェブサイトに中傷記事や猥褻な情報等を掲載して当該ドメイン名と関連性を推測される企業に損害を加える目的、を有する場合などが想定される…

要件①は、上記のような意味での「不正の利益を得る目的」又は「他人に損害を与える目的」のいずれかが認められれば充足することになります。

(2) 本件の場合
本件では、Y社は、最近、雑誌やTVに採り上げられるなどして、知名度も高まってきた本製品の名称をドメイン名として使用しつつ、本製品と類似の製品を販売していることから、上記②「他人の顧客吸引力を不正に利用して事業を行う目的」が認められる可能性がありそうです。

3. 要件②(特定商品等表示)
(1) 意義
「特定商品等表示」とは、「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章その他の商品又は役務を表示するものをい」います(不競法2条1項19号)。この「特定商品等表示」に該当するためには、問題の表示が、自他識別機能又は出所識別機能を備えていることが必要です。このため、これらの機能を有しない普通名称や慣用表示、自己の氏名等を用いる場合には、同号所定の不正競争には該当しないと考えられます [1]

(2) 本件の場合
X社が使用している本製品の名称は、「人の業務に係る…商標、標章その他の商品…を表示するもの」といえます。したがって、本製品の名称は、特定商品等表示に該当すると考えられます。
なお、本製品の名称が普通名称化している等といった事情があれば別ですが、本製品の名称は造語ですし、2年ほど前に販売が開始されたばかりですから、一般的な語として普及し、普通名称となっている可能性は低そうです。

4. その他の要件等
Y社は、「uslf」という本製品の名称と同一のドメイン名のウェブサイトで本製品と類似のドリンクを販売していることから、「他人の特定商品等表示…と同一…のドメイン名を使用する行為」を行っているといえます。
以上を踏まえますと、Y社の行為は不競法2条1項19号の不正競争に該当する余地がありますので、X社は、Y社に対して差止等を請求できる可能性があります。

第3 不正競争行為該当性が認められる場合の効果
不競法上認められるドメイン名の不正使用に関する救済は以下のとおりです。

1. 損害賠償請求に関する損害額の推定規定
まず、損害賠償請求が可能です(不競法4条)。不競法5条3項5号には、ドメイン名の損害額の推定規定が設けられています。これにより、不正競争によって営業上の利益を侵害された者が損害賠償請求を行う場合、ライセンス料相当の金額を損害額として請求することが可能です。
過去の裁判例[2]では、同号を根拠として、売上の0.5%に相当する額の損害賠償が認められた例があります。

2. 差止請求等
次に、ドメイン名の使用差止請求が可能です(不競法3条)。具体的な差止めの内容としては、ドメイン名に関する特定の使用方法又は使用全般の禁止のほか、ドメイン名の登録抹消請求も可能と考えられます。ただ、ドメイン名の移転(取戻し)については、商標法等において救済方法としての登録移転に関する規定が置かれていないこととの法的整合性等の理由から、不競法にも規定は置かれていません[3]。そのため、不競法に基づき不正使用されたドメイン名の移転を求めることはできません。
もっとも、 不正使用されたドメイン名の移転請求については、別途、JPNIC(一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター)の手続を利用して実現することができます。この点については「ドメイン名の不正使用に関する対応 その2(JPNICを利用したドメインの取戻し)」をご覧下さい。

[1] 経済産業省 知的財産政策室編「逐条解説不正競争防止法」(平成30年11月29日施行版)118頁

[2] 大阪地判平16・7・15(平成15年(ワ)第11512号)マクセル事件

[3] 経済産業省 知的財産政策室編「逐条解説不正競争防止法」(平成30年11月29日施行版)119頁

2019年8月16日