OSSとはどのようなものでしょうか。また、OSSライセンスにはどのような条件が定められているのでしょうか。
OSSとは、簡単に言えば、ソースコードが入手可能であり、誰でも自由に複製や改変、配布ができる条件で提供されているソフトウェアのことです。もっとも、無条件で利用可能であるわけではなく、様々なライセンス条件が定められています。
※関連記事として、「OSS(オープンソースソフトウェア)利用上の注意点」:https://www.it-houmu.com/archives/1848 もご覧ください。
1 OSSとは
OSSとは、一般的には、Open Source Initiativeが提唱する以下の10条件による定義(The Open Source Definition)[1]を満たすソフトウェアであると考えられています。
1.自由な再頒布ができること
2.ソースコードを入手できること
3.派生物が存在でき、派生物に同じライセンスを適用できること
4.差分情報の配布を認める場合には、同一性の保持を要求してもかまわない
5.個人やグループを差別しないこと
6.利用する分野を差別しないこと
7.再配布において追加ライセンスを必要としないこと
8.特定製品に依存しないこと
9.同じ媒体で配布される他のソフトウェアを制限しないこと
10.技術的な中立を保っていること
そして、当該条件を満たすように、様々なソフトウェアライセンス文書(以下「OSSライセンス」といいます。)が公開・利用されています[2]。
万一、これらのOSSライセンスに違反したうえで利用した場合、ソフトウェア(著作物)に係る著作権侵害行為に該当すると考えられ、その場合著作権者から損害賠償請求や差止請求を受けるおそれがあります。
本稿では、上記のようなライセンス違反による責任を負うことがないよう、OSSライセンスについて知っておくべき基礎知識として、主要なOSSライセンスで採用されている重要な条件等について解説します。
2 OSSライセンスの確認方法
そもそも、OSSライセンスとはどこに記載されているものなのでしょうか。
まず確認すべきは、OSSとして頒布されているソースコードに同梱されているテキストファイルです。
大抵は、”LICENSE”や”COPYRIGHT”等と名付けられていることが多いため、ソースコード内部を検索すれば、容易に見つけることができます。
次に、組み込み製品にOSSが利用されている場合には、当該製品の画面に表示されていたり、取扱説明書に記載されていたりすることがあります。また、各記載箇所にURLが記載されており、そこからOSSライセンス全文が記載されているウェブページへアクセスできるようになっている場合等もあります。これらは、後に説明する著作権表示・ライセンス表示義務を果たすための工夫といえます。
3 非保証
殆ど全てのOSSライセンスには、OSSは”AS IS”(現状有姿)で提供されているのであり、品質について何ら保証しないなどという非保証条項が記載されています。
このような非保証条項が存在することから、OSSを利用した開発を行ってその成果物を再頒布する場合には、頒布先に対して、何ら保証のないOSSについて自身が保証してしまわないよう、十分留意する必要があります(そうでなければ、当該OSSに欠陥等があったとしても、自身が単独で責任を負うことになってしまいます。あえて保証するという場合もありますが、その適否については慎重に検討する必要があります。)。
4 著作権表示・ライセンス表示義務
やはり殆どの全てのOSSライセンスにおいて規定されている条件として、著作権表示・ライセンス表示義務があります。
例えば、著名なOSSライセンスの一つである「MITライセンス」においては、以下のような規定があります。
Copyright (c) <year> <copyright holders> 以下に定める条件に従い、本ソフトウェアおよび関連文書のファイル(以下「ソフトウェア」)の複製を取得するすべての人に対し、ソフトウェアを無制限に扱うことを無償で許可します。 (中略) 上記の著作権表示および本許諾表示を、ソフトウェアのすべての複製または重要な部分に記載するものとします。 (以下略) |
※上記は、https://licenses.opensource.jp/MIT/MIT.html から引用した参考訳。なお、下線は筆者によるもの。
上記のとおり、利用者がOSSを複製・再頒布等する場合に、「著作権表示」(コピーライト、年数、著作権者等の表記)を行うことや、「本許諾表示」(ライセンス文書の表記)を行うことが条件とされています。
仮に利用者がソースコードを再頒布する場合には、前記2記載のとおり元のソースコードに著作権表示・ライセンス表示が記載されているファイルが同梱されているはずですので、利用者において特別な対応は必要ないという場合が多いです。
他方で、組み込み製品にOSSを組み込んで頒布する場合に、どこに著作権表示・ライセンス表示をすればよいのかという点は悩ましいポイントですが、前記2記載のように、製品画面や取扱説明書等に記載する例が多く見受けられます。
この点、OSSライセンスによっては、表記場所を指定しているものもあるため、個別案件ごとに各OSSライセンスを熟読する必要があります。例えば、TOPPERSライセンスでは、前記組み込み製品の場合において、利用者マニュアル等の再頒布にともなうドキュメントに著作権表示・ライセンス表示をせよという記載があります[3]。
4 特許ライセンス義務
一部のOSSライセンスには、特許ライセンス義務を課しているものがあります(代表例:Apacheライセンス、GPLライセンス)。以下、具体的に説明します。
OSS(ソフトウェア)とは基本的に著作物ですので、その利用は主に著作権が関係しますが、OSSの利用(実行や再頒布)が、他者の特許権を侵害する可能性がある場合があります。このような事態になれば、ソフトウェアの自由な利用・再頒布というOSSの理念に反する結果にもなりかねません。
そこで、一部のOSSライセンスでは、OSSを利用する条件として、当該利用者が保有している当該OSSに関する特許権について、他のOSS利用者に対するライセンス義務が課されることがあります。
例えば、Apacheライセンス(バージョン2.0)では、以下のように、OSSのオリジナル作成者およびコミュニティに認められた改変者(コントリビューター)は、他のOSS利用者に対し、当該OSSを利用するための(一定の範囲の)特許ライセンスを付与するとされています。
3. 特許ライセンスの付与 本ライセンスの条項に従って、各コントリビューターはあなたに対し、成果物を作成したり、使用したり、販売したり、販売用に提供したり、インポートしたり、その他の方法で移転したりする、無期限で世界規模で非独占的で使用料無料で取り消し不能な(この項で明記したものは除く)特許ライセンスを付与します。ただし、このようなライセンスは、コントリビューターによってライセンス可能な特許申請のうち、当該コントリビューターのコントリビューションを単独または該当する成果物と組み合わせて用いることで必然的に侵害されるものにのみ適用されます。あなたが誰かに対し、交差請求や反訴を含めて、成果物あるいは成果物に組み込まれたコントリビューションが直接または間接的な特許侵害に当たるとして特許訴訟を起こした場合、本ライセンスに基づいてあなたに付与された特許ライセンスは、そうした訴訟が正式に起こされた時点で終了するものとします。 |
※上記は、https://licenses.opensource.jp/Apache-2.0/Apache-2.0.html から引用した参考訳。なお、下線は筆者によるもの。
また、ただし書きでは、当該OSSの利用者は、当該OSSが自身の特許権侵害に当たるとして「特許訴訟」(”patent litigation”)を提起した場合、上記特許ライセンスは終了するとあります。
このようなペナルティを設けることにより、当該OSSについて特許権侵害を訴えられるおそれを減らす試みがなされています。
5 ソースコード開示義務
OSSライセンスの中でも著名なライセンスの一つであるGPLライセンス等には、OSS利用者に対し、再頒布の際にOSS及びその改変物のソースコードを開示する義務が課せられています。
特にOSSを商用利用しようという利用者にとっては、元のOSSのオリジナル部分のみの開示であればまだしも、(本来であれば競争力にもなり得る)自ら改変したカスタマイズ部分や、当該OSSとリンクさせる自身のプロプライエタリなアプリケーションソフトウェア部分にまで上記開示義務が及ぶおそれがあり、ビジネス上も非常に重要な条項になっているといえます。
本条件の詳細は、別記事(「GPL系のOSSライセンスとソースコード開示義務」:https://www.it-houmu.com/archives/1902 にて詳細に解説しておりますので、併せてご確認ください。)
6 おわりに
以上のとおり、多くのOSSライセンスに共通する重要なライセンス条件について説明しました。
もっとも、OSSライセンスに記載されている条件は千差万別であり、いかなるOSSを利用するにしても、必ず個別のライセンス条件を確認する必要があります(また、本稿ではわかりやすく日本語参考訳を紹介いたしましたが、本来であればいずれも原文を確認する必要があります。)。 なお、OSSライセンスは、一見して意味を解釈し得ない曖昧な文言も散見されますので、OSSを利用する際には専門家にご相談することをお勧めいたします。
2023年11月14日
[1] https://opensource.org/osd
[2] 例えば、https://licenses.opensource.jp/では、主要なOSSライセンスの日本語参考訳を紹介しています。