システム開発契約には「請負契約」と「準委任契約」があるようですが,請負契約はユーザに有利であり,準委任契約はベンダに有利であると聞きました。この理解で間違いないでしょうか。
そのような理解は妥当ではありません。準委任契約においてもベンダは善管注意義務を負い,業務の遂行方法や結果に問題があった場合に責任を問われる可能性は十分にあります。
契約を締結するに際しては,契約の目的(仕事の完成か,事務の遂行か)に照らし,どのような性質の業務を遂行する工程なのか(ベンダが単独で遂行できるような性質の業務であるか,ユーザの情報提供や協力を得つつ遂行すべき性質の業務であるか),契約締結段階で完成すべき仕事や目的物が明確になっているかといった観点から,「請負契約」と「準委任契約」のいずれを選択するか検討する必要があります。

システム開発契約は,請負契約あるいは準委任契約として締結されるのが通常です。
もちろん,請負契約・準委任契約ではない契約として締結することも可能ですが,「請負契約」または「準委任契約」として締結することにより,契約の性質について当事者間の共通認識を形成することができるため,契約交渉をスムーズにすることができるでしょう。

両者の区別は,大まかにいうと,仕事の完成(ソフトウェア開発業務の完了等)を目的とする場合には請負契約が締結されるのに対し,事務の処理(エンジニア等の専門的スキルの提供)を目的とする場合には準委任契約が締結されます。

請負契約は仕事の完成を目的とするもので,ベンダは重い責任を負うことになります。他方,準委任契約は事務の処理を目的とする契約であることから,「ベンダは事務を履行さえすれば結果はどうあろうとかまわない」「事後的に責任を問われることはない」という話を耳にすることも多いのですが,これは誤解です。準委任契約においても,ベンダは善管注意義務(民法第656条・第644条)という,いわば専門家として適切に業務を遂行すべき義務を負います。業務を全く遂行しなかった場合のみならず,業務の遂行方法や結果に問題があった場合にも,責任を問われる可能性は十分にあります。また,準委任契約であっても,例えば,要件定義工程における要件定義書など,工程終了時に納入すべき成果物が定められ,こうした成果物の交付を以って報酬請求の条件としている例は多く(※1),その意味では準委任契約と請負契約の距離は近接しているとも言えます。
請負契約と準委任契約の区別に関し,「準委任契約は完成の責任を負わない契約であって請負契約よりもベンダに有利である(あるいは請負契約はユーザに有利である)」といった評価がされることもありますが,上記のとおり,このような評価は妥当ではありません。

契約を締結するに際しては,どちらが有利かという観点ではなく,それぞれの契約の目的(仕事の完成か,事務の遂行か)に照らし,どのような性質の業務を遂行する工程なのか(ベンダが単独で遂行できるような性質の業務であるか,ユーザの情報提供や協力を得つつ遂行すべき性質の業務であるか),契約締結段階で完成すべき仕事や目的物が明確になっているかといった観点から検討する必要があります。
例えば,要件定義工程では,ソフトウェアで実現すべき業務を分析し,必要となるシステムの機能・要件を明確にする作業が行われますが,その作業は,ユーザの業務や,ユーザのシステムに対するニーズを踏まえてすすめられるべきものであり,ユーザからの積極的な情報提供や協力なしには完遂できないものである上,その結果の適否はユーザのみが判断しうる性質の作業であるといえます。そのため,準委任契約が選択されることが通常です。
他方,開発工程を例に挙げると,その作業は基本的にはベンダが単独で実施することが可能な性質のものであり,契約締結段階においてその内容や範囲が明確になっている目的物(プログラム)を納入することが契約の目的とされます。そのため,請負契約が選択されることが通常です。

契約交渉の現場では,ユーザ・ベンダ双方が,過去の取引事例に縛られたり,上記で述べたような「請負契約はユーザに有利である」といった思い込みに基づいて請負契約とするか準委任契約とするべきかが議論されることも多く見受けられますが,両者の特徴を正確に理解し,実施しようとしている業務と両当事者の役割,経験や実力などの実情を踏まえて,実情にあった契約形態を選択すべきであると言えます。むしろ,実情に合わない契約書を取り交わすことは,両当事者の義務内容をあいまいにしてしまう可能性があり,紛争解決を困難にしてしまうという危険すらあります。

※1
改正債権法案では,成果完成型(事務処理による一定の成果に対して報酬が支払われる形式)の準委任契約についての規律が設けられている(改正債権法648条の2)。

(弁護士 久礼美紀子 H29.2.28)