システム開発に関して,ベンダから提案書の提示を受け,その後,契約を締結して開発が実施されました。しかし,ベンダから納品されたシステムは,提案書に書かれたとおりの内容になっていません。ベンダは,「契約書には書いていない」と言っていますが,提案書どおりの実装とするよう,要求することはできないのでしょうか。
一般論として,提案書に記載されている事項であっても,契約書に記載されていなければ,その実装を求めることは難しいと考えられます。ただし,提案書の記載方法,提出の経緯などによっては,合意の一部を形成し,提案書に沿った実装を求めることができる場合もあるでしょう。

システム開発を委託するにあたり,発注者(ユーザ)が複数の開発業者(ベンダ)に対し,見積の前提事項を記載したRFP(Request for Proposal/提案書作成依頼)を提示し,これに対してベンダが提案書を提出し,ユーザは,提出された提案書を評価してベンダを選定するということが行われています。ベンダが一社である場合にも,提案書が提示される例は多くあります。契約書に記載されている事項については,当事者を法的に拘束するのが原則ですが(※1),RFPや提案書等の文書に記載されている内容は,当事者を拘束するのでしょうか。例えば,開発すべきシステムにおいて実現される機能が提案書のみに書かれていた(契約書には記載がなかった)ケースにおいて,当該機能が実装されなかったといった場合に問題になります。

締結された契約との関係や,RFPや提案書に記載された内容次第になりますので,一概に結論付けることは難しいところですが,企業間の契約では書面で「合意」されたことが重要視されますので,RFPにてユーザが見積の前提として提示した事項や,提案書にてベンダが提案した事項が直ちに当事者間の合意内容を形成するとは考えにくいでしょう。なお,契約書には,完全合意条項(当事者間の合意内容は,契約書記載内容がすべてであり,契約締結以前の口頭,メール等での合意は効力が生じないとする条項)が入っていることも少なくなく,このような条項がある場合にはRFPや提案書のみに基づき法的義務が生じる可能性はより低くなると考えられます。

もっとも,裁判例の中には,次のように述べて提案書は契約書の一部を構成すると認めた例もあります(東京地裁平成16年3月10日判決。一部引用者による編集。)。

ベンダは、本件電算システム開発契約の締結に当たり、ユーザと契約書を取り交わしている上、契約締結に先立ち、本件電算システム提案書を提出し、その内容に基づくシステム開発を提案し、これを了承したユーザと本件電算システム開発契約を締結したものであるから、本件電算システム提案書は、契約書と一体を成すものと認められる(本件電算システム提案書と契約書の一体性は、被告も争っていない。)。

ユーザは,システム導入前には大きな期待をしますから,RFPには多くの要求をし,ベンダも,受注するために要求に応え,「バラ色」の提案をしがちですが,これらの位置づけを明確にしないと後の紛争のタネになってしまいます。

紛争を回避するための方法としては,RFP・提案書の特定事項について合意に含めるよう,契約書の別紙として添付したり,RFPや提案書を特定したうえで,契約書本文においてそれらがユーザ・ベンダの合意事項(=法的義務)であることを明確にしておくことが考えられます。

受託者は,納入期限までに本件ソフトウェアを完成することができるよう,本契約及び個別契約ならびに●●提案書において提示した開発手順や開発手法,作業工程等に従って開発作業を進めるとともに,常に進捗状況を管理し,開発作業を阻害する要因の発見に努め,これに適切に対処するものとする。

また,システム開発をめぐる裁判では,RFPや提案書の記載から直ちに法的義務を認定するというレベルに至らない場合でも,RFPや提案書の提示というプロセスが一般的なものであるとの認識は広がっており,それらが重要な証拠として扱われる場面も多くあります。例えば,ユーザが「システムの不具合である」と主張するのに対して,ベンダが「ユーザの要求どおり実装した」と反論するのはままある場面ですが,このような場面において,契約書に要求事項の明示がなかったとしても,RFPに記載された内容はユーザの要求を認定する重要な証拠となるでしょう。

※1
契約書においても,一定の事項が法的義務ではなく努力義務として定められたり,確認規定とされることはあります。

(弁護士 久礼美紀子 H29.2.28)