システム開発プロジェクトでは週次の進捗会議が開催されていますが,会議の運営や議事録作成においてどのようなことに注意すればよいでしょうか。
実務上,会議とその議事録が重要なのは言うまでもありませんが,法的な観点からみても注意すべきことが多々あります。例えば,(i)会議体の定義,役割は契約書と整合が取れているか,(ii)議事録の内容は,双方当事者によって確認されているか,といった点に配慮すべきです。

(a)プロジェクトマネジメント義務と議事録

システム開発プロジェクトが途中で頓挫した場合,その責任の所在を巡って,プロジェクトマネジメント義務,協力義務が問題になるということは「納期に遅延した場合の責任」にて説明しました。システム開発紛争においては,こうした義務を履行したこと(あるいは履行していないこと)などの実態を明らかにする際に議事録が非常に重要な資料となります。

ベンダのプロジェクトマネジメント義務や,ユーザの協力義務というのは,言い換えればプロジェクトの期間を通じて,与えられた役割をしっかり果たす義務であるといえるため,立証の対象となる事実の期間も長く,内容も多岐にわたり,これを紛争発生後に立証することは容易ではありません。ベンダがきちんとユーザに説明をしていたか,作業の催促をしていたか,ユーザはベンダの指示や依頼に基づいて情報提供や課題解決をしていたかということは,多くの場合,会議でやり取りされているため,議事録はこれらを立証するうえで重要な役割を果たします。

(b)議事録のその他の機能

議事録の役割は,プロジェクトマネジメント義務,協力義務の履行にかかわるものに限りません。システム開発では,契約締結時には必ずしも仕様が確定しておらず,ユーザとベンダとの間の協議によって仕様が確定していくということが行われているため,システムの完成や瑕疵の有無を判断する際に,両当事者の合意の内容を確認するために議事録が用いられることも少なくありません。

(c)会議運営上の注意

このような議事録の役割にかんがみると,会議を実施した際には,しっかり議事録を残しておくという,ごく当たり前のポイントが見えてきますが,紛争処理の観点からは次のような点も重要です。

1.会議体の位置づけは明確になっているか

大きなプロジェクトになると,様々な階層,領域で会議が開かれます。それぞれの会議は,出席者,開催頻度,役割が異なるはずです。ある会議で「決定事項」とされたことが,両当事者間の合意だといえるかどうかはケースバイケースです。議事録が訴訟の証拠として提出される際には,その会議の「位置づけ」というものを説明しなければならない場面も出てきます。責任者同士が顔を合わせる「ステアリングコミッティ」なのか,担当者同士の不定期な打ち合わせなのかによって,決定事項の重みづけが違うということは明らかでしょう。会議の「位置づけ」について,契約書の記載に基づいて説明できれば非常にわかりやすいのですが,契約書で,会議体の定義をしていたとしても(経済産業省のモデル契約では「連絡協議会」という会議体が定義されています。),プロジェクトの現場で,それと異なる会議が運営されていたとしたら,かえって混乱を招くことになります。したがって,プロジェクトの開始時には,実際の運用を踏まえて会議体を定義し,契約書等に記載するとともに,契約書等において決められたルールどおりに運営することで,議事録の証拠としての価値が高まることになります。

2.議事録は合意された内容が記載されているか

内部的に作成された議事メモなどが証拠として提出されることがあります。こうしたメモにまったく価値がないわけではありませんが,相手方が内容を確認・同意していないメモは,往々にして自己に都合の良いことしか書かれておらず,訴訟の場で「そんなことは言っていない」といった水掛け論を招く結果となります。逐一,議事録に捺印をもらうことが手間であれば,会議体の定義の際に,議事録作成担当者を決め,議事録回覧後,一定期間内に異議がなければ確定する,といったルールを設けていれば,その手続に則った議事録の内容について,後々の異議を封じやすくなります。

ある訴訟では,相手方が提出した議事録に,こちらに極めて不利な内容が書かれていました。しかし,こちら側の担当者は,その議事録が送られた直後に,内容が間違っている,こんなことは言っていないから修正を求めるというメールを繰り返し送り,相手方がこれを拒絶し続けるというやり取りが繰り返されていました。こうしたやり取りを証拠として提出することで,不利な議事録の価値を下げることができました。訴訟になってから,そういったやり取りを示す証拠もなしに,「あのときはそういうつもりではなかった」と主張してもなかなか通用しません。内容に疑義があるときは,間髪入れず指摘して修正を求めるとともに,そのやり取りがメール等の証拠に残るようにしておくことが重要です。

(弁護士 伊藤雅浩 H29.3.29)