ユーザ・ベンダ間のシステム開発委託契約における責任限定条項は、どの程度有効なのでしょうか。

システム開発委託契約に関連する損害賠償請求は、損害額が高額になりがちで、損害賠償の金額や範囲を限定する、いわゆる責任限定条項有効性が問題となります。システム開発委託契約は通常BtoBの契約であるところ、このようなBtoB契約においては、責任限定条項が比較的広い範囲で有効となる可能性があります。ただし、場合によっては当該条項の適用が認められないケースもありますので、留意が必要となります。


1.責任限定条項とは

 責任限定条項とは、ある契約に関して契約当事者に損害が生じた場合に、他方当事者が負う損害賠償責任を一定限度に留める条項です。
 これには、主に2つの方向性の限定が考えられます。

 ①賠償する損害の範囲を限定するもの

 例:甲及び乙は、本契約に関し、故意又は(重)過失により相手方に損害を与えたときには、それにより相手方が被った損害について、直接かつ通常の損害に限り、賠償しなければならない。

 上記の例では、賠償する損害の範囲を「直接かつ通常の損害」に限定しています。
 逆に、「間接損害」、「特別損害」、「逸失利益」といった特定の類型の損害を除外するということも考えられます。

 ②賠償する損害額を限定するもの

 例:甲及び乙は、本契約に関し、故意又は(重)過失により相手方に損害を与えたときには、それにより相手方が被った損害について、本契約に基づく委託料相当額を上限として、賠償しなければならない。

 上記の例では、賠償する損害額の上限が「本契約に基づく委託料相当額」に設定されています。これが取引基本契約の場合には、「当該損害の原因となった個別契約に定める委託料」等を上限として設定することもあります。

 これらの責任限定条項は、他の取引に関する契約書でもよくみられることですが、とりわけシステム開発委託契約においては、ベンダが納品したシステムに瑕疵があり、これに起因してユーザの業務がストップしてしまった場合等、損害額が高額に膨らみやすいため、ユーザの損害の回復、あるいはベンダのリスクヘッジのために特に重要な規定といえます。

2.責任限定条項の有効性に関する裁判例

 システム開発紛争においては、前記のとおり、責任限定条項の存在によって賠償額が大きく異なることから、当該条項の有効性がしばしば問題となります。

 当該有効性を検討する前提として、そもそも、契約当事者間(特にBtoB取引)で当事者が負う責任の範囲について契約により特別の定めをすることは、原則として有効なものであるといえます。

 もっとも、その定めの内容によっては、例外的に無効と判断される場合もあります。
 ここで裁判例をご紹介すると、ベンダがユーザからの委託に基づき製作したアプリケーションの脆弱性を原因として、ユーザのウェブサイトから商品を注文した顧客のクレジットカード情報が流出したという事案(東京地判平成26.1.23判時2221号71頁)において、以下のような責任限定条項が定められていました(下線は筆者によるもの。)。

(損害金)
第25条 甲若しくは乙が本契約内容に違反した場合には、その違反により相手方が被る全ての損害を賠償するものとする。
(損害賠償)
第29条 乙が委託業務に関連して、乙又は乙の技術者の故意又は過失により、甲若しくは甲の顧客又はその他の第三者に損害を及ぼした時は、乙はその損害について、甲若しくは甲の顧客又はその他の第三者に対し賠償の責を負うものとする。
2 前項の場合、乙は個別契約に定める契約金額の範囲内において損害賠償を支払うものとする

上記下線部のとおり、本件では、契約当事者間で「故意又は過失により」乙(ベンダ側)が委託業務に関連してユーザ又はその顧客等に損害を及ぼした場合に、その損害について、「個別契約に定める契約の範囲内において」損害賠償を支払うものと合意されていました。
 ところが、裁判所は、故意を有する場合や重過失がある場合にまで同条項によってベンダの損害賠償義務の範囲が制限されるとすることは、「著しく衡平を害するものであって,当事者の通常の意思に合致しない」などとして故意・重過失がある場合の責任限定条項の適用を認めませんでした。
 このように、当事者間の契約において責任限定条項が定められていたとしても、「著しく衡平を害するもの」(典型的には、当事者の故意又は重過失によって損害が発生した場合にまでその責任を限定するもの)は、その限りで無効となる可能性があります。

 なお、ここでいう「重過失」とは、一般的に、当該予見・回避が容易であったのに当該結果を予見・回避しなかった著しい客観的注意義務違反をいうとされます(東京高判平成25.7.24平成22年ネ481号等参照)。
 システム開発紛争においては、上記のとおり責任限定条項の一部無効を前提として、損害の発生が当事者の重過失によるものか、軽過失にとどまるかが激しく争われるわけですが、この点は、案件ごとの個別事情を検討し、原因となった行為時に、当事者が結果(損害に繋がるシステムの瑕疵やインシデント)の発生をどの程度予見でき、また回避可能だったのか、その容易性を判断していくことになります。

3.おわりに

 以上のとおり、責任限定条項については、とりあえず規定しておけば安心、というものではなく、万一紛争となった場合にどの範囲で有効性が認められるかという点について契約締結段階から予想し、適切にリスク評価をすることが重要となります。

2024年9月9日