システム開発を委託するにあたり,ベンダから,「業務委託基本契約書」を締結することを提案されました。基本契約の締結は必要なのでしょうか。
システム開発においては,合意内容を明確にしておくべき事項が多くありますが,それらはある程度定型化されています。そのため,複数の契約に共通して適用される条件を基本契約に定め,それに基づく個別契約として,個々の業務委託契約を締結していくことは有用です。

(a)契約書作成の必要性

ビジネスにおける重大な取引を行う際に契約書を作成したほうがよい,ということは今さら言うまでもありません。特に,システム開発のように無形のモノを制作して納品,提供するという場合には,契約締結段階における双方の認識の不一致が生じやすく,トラブルも多発しています。契約書は,そのようなトラブルの際の解決の指針となるツールであり,紛争予防あるいは早期解決の観点から重要です。

では,どのような形態で契約を締結するのがよいのでしょうか。

(b)基本契約と個別契約

システム開発の契約で定めるべき事項は多岐にわたりますが,おおむね定型化されてきています。(具体的な契約条件については,経済産業省が提示しているモデル契約などが参考になります。)

1社のベンダに対して,複数のシステムの開発を委託することもあり得ますし,一つのシステムを開発する場合でも複数の工程に応じて契約を分けて業務を委託することがありますが,システムの内容や工程にかかわらず,契約条件が共通する部分は多くあります。

複数の業務委託契約に共通する部分があることから,契約ごとにすべての契約条件を一から交渉するのではなく,各工契約に共通の条件についてまとめて規定する「基本契約」を締結した上で,具体的な委託業務の内容や金額等を定める「個別契約」を締結することがよく行われています。

もっとも,業務委託契約が準委任契約型なのか請負契約型なのかによって条件が異なるという点は無視できません(たとえば,準委任契約においては作業内容や作業期間を定めるのに対し,請負契約では成果物,仕様,検収条件を定めるなど)。そのため,請負契約用の基本契約と準委任契約用の基本契約を2通締結したり,1通の基本契約の中に,請負契約用の条項と準委任契約用の条項を別々に定めておくといった工夫は必要でしょう。

さらに,対象とする工程によって,必要となる項目が異なることも想定されるため,基本契約において,工程別に適用される条項を定めておくという例もあります。経産省のモデル契約ではその方法がとられています。

(弁護士 久礼美紀子 H29.2.28)