ソフトウェア開発を委託しようとしたところ,ベンダから,開発したシステムの著作権はすべて開発者であるベンダに帰属させるという条件が提示され,それと引き換えに委託料金を値下げするとの申し出ありました。ベンダに著作権が帰属するとした場合,当社には,どのような不都合が生じるのでしょうか。
システムのユーザとして使用するだけであれば,著作権がベンダに帰属していても大きな問題はありません。ただし,開発されたソフトウェアを,改変できる範囲が制限され,パッケージソフトとして第三者に販売したり,ウェブサイトを通じてダウンロードさせたりすることもできません。また,ベンダが,同様のソフトウェアを第三者に提供することが可能となるという点もデメリットと評価し得ます。

ソフトウェア開発に関する契約交渉に際して,著作権の帰属が問題となることはよくあります。そもそも,著作権の帰属を論点とすることには,どのような意味があるのでしょうか。

(a)ユーザの観点

著作権法上,著作物の「使用」と「利用」は区別されています。「使用」とは著作権法上の「利用」(複製,改変等)に含まれない行為で,著作物の「使用」は,著作権者の許諾がなくても行うことができます。

したがって,ソフトウェアをユーザとしてそのままの状態で使用するだけであれば,著作権が自己に帰属している必要はありません。

ただし,ソフトウェアを開発したベンダ以外のベンダや,自社内において,ソフトウェアの機能追加その他のアップデートを実施したいと考える場合には,著作物の「複製」や「翻案」を行うこととなるため,著作権の利用許諾や,著作権の譲渡を受けておく必要があります(※1)。

(b)ベンダの観点

ベンダにおいては,再利用可能性という観点がポイントとなります。
ベンダとしては,同じようなソフトウェアを開発するのであれば,既に開発済みのものを再利用した方が効率的な場合が多いでしょう。しかし,ベンダが開発したソフトウェアの著作権をユーザに譲渡した場合,ベンダは,ユーザの許諾なくして複製や翻案等の「利用」行為を行い得なくなるため,他のユーザに対して,当該ソフトウェアや当該ソフトウェアを改変したものを提供することができません。そのため,再利用することを前提とするアーキテクチャ,フレームワークを構成する部分については,著作権を譲渡すべきではありません。

(c)著作権の帰属についての定め

システム開発にかかる契約においては,納入物の著作権は委託者に移転することを原則としつつ,従前からベンダが有するものや汎用的なものについては移転しないとする例が多いようです。

もっとも,納入物のどの部分が汎用的なものなのか,あるいは,従前から保有していたものなのかは不明確になる可能性があります。少なくとも,納入時に指定することは必要ですし,契約において,汎用的あるいは従前から保有していたもののうち,納入時にベンダが指定したものに限って著作権が移転しない扱いをあらかじめ定めておくことも考えられます。

ベンダとユーザの妥協点として,著作権を「共有」するという例も見られます(正確にいえば,ベンダに帰属する著作権の一部を譲渡するということになります。)。しかし,著作権を共有とする場合,著作物を第三者に利用許諾したり,自身が著作物を「利用」する場合にも,全著作権者の同意/合意が必要とされています(著作権法65条)。そのため,ユーザとしては,自由に第三者に利用許諾したりソフトウェアを改変することができなくなり,ベンダとしても,開発したソフトウェアを自由に再利用することができなくなるという問題があり,著作権の共有という方法は,ユーザ・ベンダ双方に対して制約をもたらすものと言えます。

また,元請ベンダが,下請ベンダから納入された納入物をそのまま,あるいは,改変して,顧客に提供するような場合においては,元請ベンダと顧客との契約における著作権の取扱いと,下請ベンダと元請ベンダの間における著作権の取扱いを整合させるという点についても留意が必要です。たとえば,元請ベンダと顧客との間では,納入物全部にかかる著作権を顧客に移転することとなっている場合には,下請ベンダと元請ベンダの間でも,例外なく著作権が移転することとしておく必要があります。

※1
著作権法第47の3に基づき,バックアップのための複製,ハードディスクへのインストール,プログラムを実行する際に生じることがあるソースコードからオブジェクトコードへの変換,デバッグの際のダンプ,環境の変更に伴う移植等は許諾なく実施できる。ただし,自己使用のためであれば機能の変更・追加が許容されるかという点については争いがある。

(弁護士 久礼美紀子 H29.2.28)