システムの開発を終えたので,ユーザに指定されたサーバにシステム一式を格納し,納品が完了したことを通知しました。しかし,ユーザは「納品とはいえない。」として契約書に定められた検収をしてくれません。契約書には,14日以内に検収しない場合には検収合格になると書かれているため,検収されたものとして報酬を請求したいのですが,可能でしょうか。
ユーザが検収を拒絶する具体的理由にもよりますが,システムが客観的に見て完成していれば,ベンダには報酬請求権が生じます。過去の裁判例には,システムが完成していたかどうかを「予定されていた最後の工程を終えているか」どうかで判断する例があります。

(a)システムの完成とは

ベンダの報酬請求権は,ベンダが請負契約の目的物であるシステムを完成させ,完成したシステムをユーザに引き渡したときに発生します(民法633条本文)。
多くの開発委託契約では,納品とともにユーザが検査を行い,その検査に合格したとき(検収合格ともいいます。)に納入物の引き渡しが完了することとされています。この場合には検収合格により報酬請求権が発生します。

こうした規定の有無にかかわらず,システムが完成しているか否かが争われる例は多数あります。ベンダが「提示された仕様のシステムは実現しているから完成している」と主張するのに対し,ユーザが「まだできていない/不具合が多数ある」などと反論するケースが典型例です。

システムの完成は,報酬請求をするベンダが証明しなければなりません。システムは目に見えるものではないことから,完成の立証は容易ではありませんが,次のような基準によって判断する裁判例がいくつかあります(例えば東京地裁平成22年1月22日判決)。

請負人が仕事を完成させたか否かについては,仕事が当初の請負契約で予定していた最後の工程まで終えているか否かを基準として判断すべきである。

すなわち,「予定されていた最後の工程」が終えていれば,たとえ不具合があったとしても,システムは完成しており,システムの不具合は完成後の瑕疵担保責任の問題として処理すべきであるとされます(「システムの瑕疵とは?」参照。)。

しかし,すべての裁判例において,上記のような「予定されていた最後の工程」という基準によりシステム完成の有無が判断されているわけではありません。裁判所は,個別具体的な事情に応じて柔軟な判断をしているようですが,それだけに事前に判断が読みにくいといえます。

システムの完成を否定した事例としては,旧システムの機能水準を満たすことが要件となっていたにもかかわらず,達成されていないという例(東京地裁平成22年9月21日判決),検証判定一覧表に照らして未完成項目が多かったという例(東京地裁平成23年4月6日判決)などがあります。
他方,システムの完成を認めた事例としては,不具合の無償の補修はアフターサービスであってシステム自体は完成しているとした例(東京地裁平成15年5月8日判決),本番環境で実際に稼働していたという例(前掲東京地裁平成22年1月22日判決)などがあります。

(b)システムが未完成の場合はどうなるのか

システムが未完成の場合における当事者の責任については「納期に遅延した場合の責任」を参照してください。

(c)システムの完成の有無でトラブルが生じるのを防ぐために

裁判例の判断が事前に予測しがたいことから,あらかじめ契約書にシステム完成の判断基準を明記しておくべきです。具体的には,検収に関する事項(検収の手続,方法,合格基準)を明確にすることが重要となります。
検収の手続については,納品後ユーザがいつまでに検査を行うのか,検査の結果や理由をどのように通知するのか,不合格になった場合に再検査はどのように行うのか,といった事項を定めておくべきです。手続が履行されない場合に備えて,みなし検収規定(※1)を設けることも考えられます。
また,後に合否をめぐって争いが生じないよう,検収の方法や合格基準も明確にしておくべきです。検収の方法には,書面上でテスト結果を確認することによって検査を行う方法もあれば,ユーザにおいて実際にシステムを動作させて検査する方法もあり,種々考えられますので,検収の方法は明確にしておかなければなりません。また,合格基準(完成と認められる仕様が何であるか)についても当事者間で十分に議論し,その結果を書面化して契約書と紐づけることが望ましいでしょう。契約締結時点で合格基準を明確にできない場合には,少なくとも合格基準を決定する手続を明確にしておくべきです。

※1
みなし検収規定とは,「検査期間内に合理的な理由を示して異議を述べなかった場合,納品物は所定の検査に合格したものとみなす。」という趣旨の規定です。

(弁護士 高岡晃士 H29.2.28)