当社は,コンサルティングファームです。システム開発プロジェクトのPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)の仕事を受託して,3人のメンバーで,クライアントの管理業務をサポートしています。ところが,開発ベンダの質が悪く,システムが完成しません。クライアントから「PMOが悪いのではないか」と責められていますが,当社はシステム未完成の責任を負うのでしょうか。
原則として,PMOを受託したというだけでは,ベンダの作業品質についてまで責任を負えないでしょう。しかし,ベンダとの直接の契約関係がないこと,あるいは,PMOの業務委託が準委任契約であることなどを理由に,システム開発の結果について何らの責任を負わないということは直ちに導かれるものではありません。PMOとして受託した業務を適切に履行せず,それによって,プロジェクトがとん挫した場合には,PMO業務委託に基づく善管注意義務違反の責任を問われるケースもありうるでしょう。

(a)PMOを外部に委託することの意義

完成前の中止のトピックにおいて,システム開発委託契約に関連し,ベンダはプロジェクト・マネジメント義務,ユーザは協力義務を負う場合があることを説明しました。最近では,ユーザが,第三者(コンサルティングファームなど)に対し,プロジェクト・マネジメント業務を委託することあります。その理由としては,次のようなものが考えられます。

  • ベンダの作業品質を監督・評価するノウハウの不足を補うため
  • ユーザが自らやるべき業務の人手不足を補うため

(b)3者の役割は明確にすべき

プロの第三者の目が加わることで,システム開発プロジェクトの成熟度が高まるように思えるのですが,当事者が3者になると,前述のような「ベンダ=プロジェクト・マネジメント義務」「ユーザ=協力義務」という2者の構造とは異なるため,その法的役割にも変化が出てくる可能性があります。

単に,ユーザに欠けている能力や人手をサポートするだけであれば,上図における「コンサル」は,単にユーザの協力義務の履行補助者というだけに過ぎません。言い換えれば,ユーザがコンサルを起用したことによって,ベンダの義務が軽減されることはないように思われます。さらにいえば,あくまでPMOを受任したことによって,対象となるシステムの品質についてまで責任を負担することは考えにくいでしょう。

しかし,もともと,ベンダがプロジェクト・マネジメント義務を負うと考えられる根拠としては,ベンダ=専門家,ユーザ=素人という構図が背景にあったことからすると,コンサルがユーザをサポートすることによって,情報技術や開発方法論に関する格差を埋めたとなれば,ベンダが一方的にプロジェクト・マネジメント責任を負うとは限らないという考え方も成り立ち得ます。

もっとも,ユーザが自主的にプロの支援を仰いだことによって,自らの義務の水準が高くなり,ベンダの義務が軽減されてしまうのでは不合理だともいえるでしょう。

このように,3者(あるいは4者以上)がプロジェクトに参画することになった場合には,それぞれの役割・責任に関するいろいろな考え方があり得るため,特にプロジェクト・マネジメントに関する役割・責任を明確にしておく必要があります。

実際のPMO業務委託の契約では,ベンダが本来行うべき管理業務(課題管理,進捗管理等)を,コンサルがとって代わって実施することが定められていることが少なくありません。請負契約と準委任契約のトピックにおいて,契約の性質が準委任契約であったとしても,善管注意義務(民法第656条・第644条)をという,いわば専門家として適切に業務を遂行すべき義務を負うことを説明しましたが,PMO業務を受託した場合にも,適切に履行されない場合には,委託者(ユーザ)に対して責任が生じるケースもあることに留意しなければなりません。

(弁護士 伊藤雅浩 H29.1.24)