スマートフォン向けアプリの開発を受託しました。当社は基本デザイン,企画までを担当し,開発は協力会社に再委託(外注)する予定です。契約書には再委託に関する条項がありません。発注者には協力会社に再委託することは伝えていませんが,特に問題ないでしょうか。また,協力会社に再委託する場合の注意点についても教えて下さい。
アプリの開発委託契約の場合,多くは請負契約であると考えられますので,契約書で再委託の場合の事前承諾条項などが定められていない限り,再委託は,ベンダの裁量で行えます。ただし,発注者との関係では,再委託先の問題(納期遅延,品質不備等)の責任は,元請けとなる企業が負います。
準委任契約の場合,契約書で再委託が許容されていない限り,原則として再委託は認められません。
協力会社に再委託する場合には,元請けとして発注者に対する義務を果たせるように,瑕疵担保責任や著作権の帰属などについて,発注者との契約内容と整合するような契約を締結することが必要となります。

(a)再委託の可否

規模の大小を問わず,システム,ソフトウェア開発では,多層的な受発注関係が形成されます。末端は,フリーランスのプログラマなど個人事業主であるケースも多く,再委託をする際に,発注者の承諾を得ないまますすめられるケースもあり得ます。発注者に無断で再委託した場合,契約違反となってしまうのでしょうか。

開発委託契約書の多くでは,「再委託する場合には,事前に書面による承諾を得なければならない。」ということが書かれています。このような規定がある場合は,当然,無断で再委託した場合には契約違反になります。では,契約書がない,あるいは契約書に再委託に関する記載がない場合はどうでしょうか。

(ⅰ)請負契約の場合

請負契約は,仕事の完成を目的としますので(請負契約と準委任契約のトピック参照),極論すれば,完成しさえすれば,誰が開発してもよいということになります。そのため,法律上,再委託は制限されておらず,契約書がない,あるいは契約書に再委託に関する記載がない場合は,協力会社に対し,自由に再委託をすることができます。

もっとも,自由な再委託が認められると,品質が担保されなかったり,セキュリティが確保されないという問題が発生し得ます(たとえばソフトウェアの開発にあたっては,ユーザの重要な機密情報に触れる機会も多く,信頼できるベンダに発注したいとユーザが考えるのも当然でしょう。)。これらの問題を回避するために,たとえば,事前承諾がなければ再委託できないなど,再委託を制限する契約条項を設けることが考えられます。なお,経済産業省のモデル契約(<第一版>59頁以下)では,再委託に事前承諾を必要とする案と,原則としてベンダの自由とする案が併記されています。

(ⅱ)準委任契約の場合

準委任契約は,事務を委託することを目的とします(請負契約と準委任契約のトピック参照)。仕事が完成さえすれば良いという請負契約とは異なり,委任者の受任者に対する信頼が基礎にありますから,原則として再委託はできません(法律上の根拠は,民法104条(本人の許諾を得た場合又はやむをえない事由がある場合に限り,代理人は復代理人を選任できるという条項)だと考えられます。)。

(b)協力会社に再委託する場合の注意点

再委託が可能な場合や元請けの承諾を得て再委託した場合であっても,再委託先の選任,監督,結果の責任は元請けが負いますから,開発が遅延したり,不具合があったりした場合には,元請けがその責任を負います。

また,協力会社に対して再委託ができる場合であっても,元請けと協力会社との間の契約内容が,元請けと発注者との間の契約内容と矛盾しないように気を付けなければなりません。

元請けとしては,協力会社に発注する際には,瑕疵担保責任(システムの瑕疵のトピック参照)の保証期間・保証内容等が,元請けと発注者との間の契約におけるそれを下回らないような配慮が必要となります。さらに,完成したプログラムの著作権の帰属についての取決めにも注意が必要です。たとえば,発注者との間では,プログラムの著作権は発注者に帰属するという契約であるにもかかわらず,協力会社との間では協力会社に留保されるという契約になっていると,著作権をめぐるトラブルに発展しかねないからです。

また,再委託先の規模によっては,下請法が適用されますので,同法に対する注意も必要です(再委託と下請法のトピック参照)。

(弁護士 永里佐和子 H29.2.28)