スマートフォン向けアプリの開発を受託しました。当社は基本デザイン,企画までを担当し,開発は協力会社に再委託します。納品・検収後,翌々月末払いでお願いしようとしたところ,再委託先の協力会社から,「下請法違反だ」と言われてしまいました。
下請法が適用される取引であれば,「納品・検収後,翌々月末払い」という支払条件は,下請法が定める条件(給付の受領日から60日以内の支払い)に反します。下請法は,支払期日だけでなく,各種の規制がありますので確認が必要です。

(a)下請法の適用条件

下請法(下請代金遅延等防止法)は,ソフトウェア開発・保守など,IT業界で適用される場面が多く,実務上重要な位置を占めています。下請法が適用される「親事業者」(元請)と「下請事業者」の範囲は,委託業務の種類及び資本金の額によって明確に線引きされています。

委託業務の種類は,製造委託,修理委託,情報成果物作成委託,役務提供委託があります。

このうち,情報成果物作成委託には,以下の種類があります。

適用場面 具体例
情報成果物を業として提供している事業者が,その情報成果物の作成の行為を委託する場合 ソフトウェア開発業者が,ユーザに販売するパッケージソフトの一部の開発を委託する場合
情報成果物の作成を業として請け負っている事業者が,その情報成果物の作成の行為を委託する場合 受託型のソフトウェア開発業者が,ユーザから請け負った開発業務の一部を委託する場合
自社で使用する情報成果物の作成を業として行っている場合に,その行為を委託する場合 コンテンツ制作会社が,自社のウェブサイトの作成の一部を委託する場合

そして,情報成果物の作成の業務委託のうちプログラムの作成にかかるものの場合には,親事業者と下請事業者のそれぞれの資本金が,次のような関係である場合にのみ下請法が適用されます(下請法第2条7項1号、2号)。

  親事業者(元請) 下請事業者
資本金3億円超 資本金3億円以下(個人を含む)
資本金1千万円超3億円以下 資本金1千万円以下(個人を含む)

また,プログラム作成以外の情報成果物の作成の業務委託については,親事業者と下請事業者のそれぞれの資本金が,次のような関係である場合にのみ下請法が適用されます(下請法第2条7項3号、4号)。

  親事業者(元請) 下請事業者
資本金5千万円超 資本金5千万円以下(個人を含む)
資本金1千万円超5千万円以下 資本金1千万円以下(個人を含む)

上記のほかにも,ソフトウェア保守や,ユーザサポート業務を他社に委託した場合には「役務提供委託」に該当し,下請法が適用されます。

(b)下請法が適用された場合の規制

下請法の適用がある場合,親事業者は,たとえば以下のような規制を受けます。

  1. 下請代金の支払期日を定める義務(ケース1)
  2. 書面の交付義務(ケース2)
  3. 下請代金の支払遅延の禁止(ケース3)
  4. 下請代金の減額の禁止(ケース4)
  5. 受領拒否の禁止(ケース5)

ケースごとにみてみましょう。なお,B社は,再委託先である協力会社です。

<ケース1>

Y「ユーザのC社からは,検収した月の翌々月末日払いでお願いって言われています。」
X「B社への支払は,お客さんのC社から入金後ということにできないかな。」

親事業者は,下請事業者に対し,下請代金の支払期日(親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して60日以内)を定める義務があるため(下請法第2条の2第1項),<ケース1>は下請法違反にあたります。

<ケース2>

X「B社には毎回同じような内容で発注しているから,今回は契約書も注文書も要らないね。金額も口頭で決まっているし,請求書ベースで進めよう。」

親事業者は,下請事業者に対し,発注書面を交付する義務があるため(下請法第3条),<ケース2>は,下請法違反にあたります。また,発注書面には,法令等で定められている,必ず記載すべき事項がありますので,注意が必要です。

<ケース3>

Y「B社への支払期日が今日ですが,ユーザのC社から、まだ支払がありません。」
X「B社と交渉して、C社からの入金後に支払うというように変更できないかな。」

親事業者は,下請事業者に対し,親事業者が下請事業者の給付を受領した日から起算して60日以内に支払期日を定めるべき義務があり(<ケース1>),この支払期日の定めは,当事者間の合意があっても遅らせることはできず(下請法第4条1項2号),<ケース3>は下請法違反にあたります。

<ケース4>

Y「B社から保守業務に関する請求書が届いています。」
X「保守案件が思ったより少なかったからヒマだったはず。1割くらい減額してもらうよう交渉したいところですね。」

下請法では,下請事業者に何ら落ち度がないのに,下請代金の減額をすることが禁じられています(下請法第4条1項3号)。したがって,<ケース4>は,下請法違反にあたります。

<ケース5>

Y「ユーザのC社から,急にプロジェクト中止の連絡がありました。」
X「B社の作業分はほとんど終わっているんですけれど,お金も払えないから受け取れないですね。」

下請法では,下請事業者に何ら落ち度がないのに,下請事業者が納入してきた納品物の受領を拒むことが禁じられています(下請法第4条第1項1号)。したがって,<ケース5>は,下請法違反にあたります。

上記のほかにも,下請法には各種の規制がありますので,協力会社に再委託する場合には,注意が必要です。

(弁護士 永里佐和子 H29.2.28)