開発スタッフをY社とのSES契約で確保し,当社(X社)の担当者の指示のもと働いてもらおうと考えています。このような業務形態は「偽装請負」のおそれがあると言われましたが,何か注意すべき点はあるでしょうか。
X社の担当者からY社の開発スタッフに直接業務上の指示を行うような業務実態だと,いわゆる「偽装請負」と評価されるリスクがあります。Y社開発スタッフへの業務上の指示は全てY社の業務責任者を介して行うよう徹底するなど,偽装請負と評価されない体制・実態を整えることが重要です。

(a)SES契約と偽装請負

法律上明確な定義があるわけではありませんが,準委任契約に基づきエンジニアを他社の開発案件等に従事させる契約をSES(System Engineering Service)契約と呼ぶことがあります。SES契約は労働者派遣契約と似たところがあり,実態としては労働者派遣と変わらない,ということも多いと聞きます。

形式は請負契約や準委任契約であっても,実態が労働者派遣となっている場合,いわゆる「偽装請負」と評価されてしまいます。偽装請負と判断されてしまうと,指導,改善命令,事業廃止命令等の行政処分がなされたり,悪質な場合には刑事罰の適用対象にもなります(労働者派遣法59条等)。さらに,労働者派遣法の改正によって,委託元(設例ではX社)からエンジニアに対して労働契約の申込み(直接雇用の申込み)をしたものとみなされ,エンジニアの申し出がある場合には委託元のほうでエンジニアを直接雇用しなければならなくなる可能性も出てきました(労働者派遣法40条の6)。

(b)適法な請負・準委任と違法な偽装請負の区別基準

適法な請負・準委任か違法な偽装請負かを判断する基準は,旧労働省告示(労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示37号))および厚生労働省のガイドライン(労働者派遣・請負を適正に行うためのガイド)で示されています。37号告示では,下表のすべてを満たす場合には適切な請負・準委任になるとされています。

一.
労働者への指揮命令を業務委託先事業主が行う
(1)業務遂行上の指揮命令 1.業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと
2.業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと
(2)勤怠管理上の指揮命令 1.労働時間(始業及び終業時刻,休憩時間,休日,休暇等)に関する指示その他の管理を自ら行うこと
2.残業,休日出勤等に関する指示その他の管理を自ら行うこと
(3)職場管理上の指揮命令 1.服務上の規律に関する指示その他の管理を自ら行うこと
2.勤務配置等の決定及び変更を自ら行うこと
二.
発注者から独立して業務処理を行う
(1)業務に関する資金等の自己調達,自己支弁
(2)事業主としての法的責任負担
(3)受託業務は次のいずれかに該当し,単なる肉体的労働力の提供でない 1.自己調達の機器,設備等を使用して業務を処理すること
2.自らの企画,専門的技術,経験に基づいて業務を処理すること

SES契約に基づいて開発スタッフが働いている現場では,上記の基準をすべて満たしていないケースは少なくないと思われます。行政処分を行う否かの一次的な判断権を持つ監督官庁が上記基準により偽装請負か否かを判断している以上,実務上は37号告示に照らして「偽装請負」と評価されない体制を整えておくべきです。

(c)偽装請負と評価されないために

37号告示では種々の要件が示されていますが,SES契約で特に注意が必要なのは,一,(1),1の「業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと」です。この要件は,開発スタッフに関する業務遂行方法に関する指示は受託者(設問の事例ではY社)が自ら行うことを求めるものです。

設例において,X社からY社開発スタッフに直接業務遂行方法に関する指示が行われるのだとすると,上記要件を充足せず「偽装請負」と評価される可能性が高いです。このような事態を回避するためには,Y社に業務責任者を置き,Y社開発スタッフに対する指示は全て同業務責任者を介して行うようにすることが必要です。問題は何が「業務遂行方法に関する指示」にあたるかですが,これは微妙な判断を求められる非常に難しい問題です。判断に迷う場合は専門家に相談することをお勧めします。

(弁護士 高瀬亜富 H29.2.28)